『SCANIA(スカニア)』はトラックやバス、エンジンなどのインポーターです。取扱製品はいわゆる「機械モノ」であり、しかも完全なビジネスユースで走行距離や稼働時間が長いわけですから、当然ながら整備や修理のためのパーツの供給体制も気になるところでしょう。輸入車の場合、乗用車であっても国内にパーツの在庫がないために修理がままならないというのは、聞かない話じゃありません。そこでほんの軽い気持ちからスカニアのスタッフの方に訊ねてみると、「パーツですか? ……あのセクション、ウチで一番大変なところなんですよねぇ」というお答え。
それは一体どういうこと……? という余計な疑問まで生まれてきたこともあり、今の時点のパーツの供給に関することと合わせて、お話を伺ってみることにしました。
指定された東京郊外の住所に行ってみると、そこは巨大な倉庫でした。広さは体育館ほど、天井までの高さは軽く10mを超えてるでしょう。棚という棚には「SCANIA」のロゴがあしらわれた箱や包みなどが整然と、けれど圧倒的な量感を湛えて並んでいます。
そこにお見えになったパーツ・セクションの方は、……えっ? なんと、華やかにしてニコやかなふたりの女性でした。“トラック”“バス”“エンジン”、そして“倉庫”というキーワードから、漠然と全身チカラこぶのような男臭い方の登場を予想していただけに、驚きました。
「いいえ、普段は東京本社で仕事をしています(笑)。パーツの発注、輸入からセールスとパーツに関する業務を私達ふたりで全てまかなう必要もあって、倉庫業務に関してはパートナー企業にお願いしているんです。」
明るく語ってくださるのは、パーツセールスのマネージャー、片山 七瀬さん。教育関係の仕事からアメリカ留学、通信系のパーツ商社を経て、3年前にスカニア・ジャパンに入社されたそうです。もうお一方は、片山さんと一緒にパーツセールスを切り盛りされている、福井 志津子さん。スカニア入社は今年1月ですが、これまで北米で部品メーカーの営業、帰国後は某トラック・ メーカーで部品の購買と、一貫してパーツ業務に関わってこられています。
さっそくお話を伺ってみましょう。
クルマが少しでも早く道路に戻れるように
──まずはスカニアの日本におけるパーツの供給体制について教えてください。
片山「はい。そうなると、最初にこの倉庫ついてお話しをしないといけないですね。ここは部品倉庫であると同時に、国内パーツ・センターの役割を果たしています。こちらで在庫をしている部品の9割はベルギーにあるスカニアの中央倉庫(SPC)から送られてきます。輸入通関を終えた部品は一度すべてこちらの倉庫に入荷し、部品ごとに仕分けされて棚付けされ、在庫部品としてシステム管理されます。お客様からオーダーをいただいたらすぐに日本全国へ発送できる態勢ができています。ここのストックにないものはSPCから取り寄せるのですが、今は月に1回の船便に加えてエア定期便を週に3回飛ばしているので、特殊なものを除けば10日前後でお客様の手元に届けられるような体制になっています」
──この倉庫にはどういうものがどれくらいストックされているんですか?
片山「今の時点ではおよそ6000点を在庫しています。少ないように思われるかも知れませんけど、スカニアはモジュール・システムを採用し部品の共通化を図っているので、車種や仕様が異なってもパーツがかなり共有できるんです。例えばバスとトラックでもコンポーネントを見ると一部共通のパーツを使用していますし、16、13、9リッターそれぞれのエンジンで同じパーツが使えたりもするので、在庫部品の数としては絞りやすいんですよ。御存知のとおりスカニアのクルマは100%ビジネスユースですから、在庫部品の種類としては、ダウンタイムを減らしクルマが少しでも早く道路に戻れるように、走行に関連する部分のメンテナンスやリペアのためのものを中心にストックしています。それに軽微のアクシデントを想定した外装のパーツにも力を入れていますし、おかげさまで新車の販売が伸びているので、オプションのアクセサリー類も少しずつですけど強化しているところです」
──基本的なことをうかがいますが、パーツ・セクションの仕事内容は?
福井「通常の自動車メーカーでは、必要な部品を調達する、必要な分だけ倉庫に在庫しておく、そしてお客様のご注文に沿ってお届けする手配をする、というのが基本だと思います。私達の場合はそうした受発注に関するところだけではなくて、パーツに関する業務全てを幅広く担当しています。例えば、スカニアは実はかなりの数のグッズやアパレルなどのマーチャンダイズを取り揃えていて、それらを日本のお客様やファンの方にお求めいただけるようにしていくための計画の組み立ても、現時点では私達が担当していて、動き始めています」
片山「アパレルについては、SCANIA TRUCK GEAR スカニア・トラック・ギアというコレクションが、春夏と秋冬の年に2回発表されていて、それが世界的にご好評をいただいてます。国内でもご紹介したく、販売方法をどうしようか、現物をどうやってお客様に見ていただこうか、と今年から少しずつ構想を練り始めています」
福井「マーチャンダイズも、衣料品は輸入にかかわる規制に合った手続き、準備をする必要があるので、現時点では“いつから本格導入します”とハッキリ申し上げることはできませんが、欲しいといってくださる声もいただいてるので、次のステップとしてなるべく早い段階で実現させたいです」
片山「スカニアでは、パーツ課は部署としてはいわゆるサービス部の一部に属しています。メカニックやテクニカルサポートのスタッフがいる部署ですので、部署内でも連携をとりながらユーザー様のダウンタイムが減らせるようディーラー様とのコミュニケーションをとらせていただく機会も多いです。ただ、あくまでもパーツの供給が第一プライオリティなので、輸入部品であっても今よりもっとスムーズにパーツの供給を進められるよう、ニーズの高い在庫パーツの選定や物流の効率化など無駄の少ないベストなカタチを作れるように、常に奮闘してるのが一番の仕事でしょうか(笑)」
「スカニア・トラック・ギア」コレクションのカタログの一部。
福井「先ほどエア便のお話が出ましたけど、エアを使えばコストもかかります。 “早く”のほかに“安く”というのも私達の課題なので、それを抑える方法も常に模索しています」
片山「それからパーツのストックのうちの1割程度は日本の法規に合わせたものを国内で調達する必要があるんですが、サプライヤーさんと交渉したり購入手配をしたりするのも、私達の仕事です。あらためて考えると……いろいろありますね(笑)」
福井「ありますね(笑)」
片山「まだまだ組織としても規模は小さいですし、人数の少ない部署ですが、新車の台数が増えているので数年経つとメンテナンスの機会も増え、本来の意味でのアフターセールスとしての出番はもっと増えていくから、今はその準備期間としてそれまでにどうやってパーツ供給の効率化やスピードアップを図るか、そのためには何が必要か、どのようにシステム化していくのか、そういった次の段階への準備をスタートさせる時期に来てますね」
ほっこりしない自分達にならないと
──スカニア・ジャパンの中でパーツ・セクションが一番大変、と聞きました。
片山・福井「そうなんですか?」
片山「うーん……どうしてなんでしょうねぇ(笑)。各部署にそれぞれ苦労があるのだと思います。少しずつですが流れができてきて、お客様をお待たせしてしまうストレスも少なくなってきたと思いますが、バスや産業用エンジンなど新しい製品も増えて、常に新しいことに挑戦させてもらっているので、それぞれに時間のかかることもあって、確かにやるべきことは本当にたくさんあります。手をつけられていないこともたくさんあるし、やりながら別のことが見えてきたりもします。だから自分達の思いどおりに進められていないストレスというのは、もしかしたらあるのかも知れないですけど、でも、仕事は楽しくやらせてもらってますよ」
福井「はい、間違いなく今までで一番やりやすい環境です。スウェーデン企業であるスカニアの社風かも知れませんね」
片山「私はスカニアに入社するまでスウェーデンという国をよく知らなかったんですけど、知れば知るほどとっても興味深いです。効率というものを大切にする反面、人間的には日本に通じるものがあるという印象を受けます。モノ作りに対する姿勢も、ヒトへの接し方も、日本人として共感できる部分が多いです。それにスカニアの個性ともいえると思いますが、組織としてはとてもフラットな社風です。上から一方的に押し付けられるんじゃなくて、誰の意見にもちゃんと耳を傾ける土壌があり、自分達で考えながら進めていくやり方を認めてもらえるので、ありがちなストレスは生まれません。多少の回り道をしてるかも知れないけど、新しいことをやっていくのは楽しいです」
福井「もちろんそこには責任というものがあって、結果を出さなければいけませんが、すごくやりがいはありますね。お役所仕事というのがない。作業の効率化だとかコスト低減のお話も経営会議で決まったからやるのではなく、部署として必要、試してみたいと考えているから実行に移す。それを結果に結びつけていくのは楽しいです。だからあまりストレスは感じてないみたいです(笑)」
──パーツにまつわる、これまでで最も大変だったこと、逆に最も嬉しかったことは?
片山「現在進行形ではありますが、よりサービスレベル(部品供給率)を向上させることには時間をかけています。お客様の視点からも輸入車をご購入を決断される際にはメンテナンス、リペアパーツ供給のスピードと供給率は決断材料のひとつとなると思います。お客様には輸入車であってもアフターセールスに関して少しでも安心感をもっていただける体制は非常に重要だと考えています。嬉しかったことは……スウェーデンのメーカーですので、国産の製品とのコンセプトの違いを感じることがありますが、スカニア製品の良さをお客様にお伝えできたときが嬉しいです。また、ちょっと難しいリクエストをいただいてお役に立てて、がんばった分だけお客様から嬉しい言葉をいただけたときとか、あたたかい気持ちになることはありますね」
福井「そうなんです。なるんですけど、でも考えてみたら、難しい状況であってもスムーズに対応できる万全の流れを作っておくのも私達の使命なので、毎回ほっこり来てても……(笑)。褒めていただけると確かに嬉しいんですけどね」
片山「そうですね(笑) 絶対にほっこりしない自分達にならないと(笑)」
──最後に、スカニアのユーザーさんやファンの方に何かメッセージをお願いします。
福井「価格の競争力だけで判断されるのではなく、現場の方々の“スカニアは運転しやすい”“スカニアは快適だ”、それに“サービス体制もしっかりしてる”という声が経営者の方に届いて選んでいただけるような、そういうメーカーでありたいです」
片山「ヨハン(CEO)も以前インタビューの中で申し上げていましたけど、やっぱりスカニアのユーザー様には一番幸せなドライバーであって欲しいと私も思っています。」
──メッセージというより、決意表明みたいじゃないですか(笑)。
片山・福井「あっ、本当だ!(笑)」
片山「では、あらためまして……。ユーザーの方には少しでも長く快適にスカニアにお乗りいただけるような、またファンの方にはもっとスカニアの世界を楽しんでいただけるようなお手伝いができるよう、がんばっていきます。御期待ください!」
仕事の内容は、とにかく多岐にわたっていて煩雑です。後手に回ることも許されません。別の部署の人が見て「一番大変」と感じられるのも、当然といえば当然でしょう。けれど、たったふたりでパーツにまつわる全てを切り盛りしてる当の女性達は、とにかく明るく、しなやかで、何よりナチュラルに前向きで、何年か先の未来を楽しみながら見つめているかのようです。そしてここにはあえて並べませんでしたが、彼女達が小さな成果を日々ひとつひとつ積み重ね続けてきたことが、スカニアの信頼感を高める上での大きな推進力となってきたのでした。
彼女達のお話をうかがっていてとても心地よかったばかりか、そのいい“気”が伝播してくるかのようでした。普段はあまり表に出ることのない裏方さんですが、常に前に進もうというこの確かなチカラがあるからこそ、スカニアのユーザーは余計な心配をすることなしに走り続けることができるのだな……。素直にそう確信することのできたインタビューでした。
PHOTO GALLERY
Text:嶋田 智之
Photos:横山 マサト