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スカニアの「持続可能な輸送」と日本の「Society 5.0」がテーマに。「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2019」プレイベント レポート

ノーベル財団とインターナショナルパートナーシップを締結したスウェーデンのトラック・バスメーカー『SCANIA(スカニア)』が今年も開催した公開シンポジウム「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2019」。2019年3月17日パシフィコ横浜で開催された本イベントに先駆け、3月16日に国際文化会館(東京・港区)にてプレイベントを実施。スウェーデン企業や国内外の交通・物流関連の企業を招いて、スカニアが目指す「持続可能な輸送」への取り組みについて披露した。

スカニアの「持続可能な輸送」と日本の「Society 5.0」がテーマに。「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2019」プレイベント レポート

スウェーデンを代表する企業関係者をはじめ、多くの識者が集った「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2019」プレイベント。

スカニアの「持続可能な輸送」と日本の「Society 5.0」がテーマに。「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2019」プレイベント レポート

開会の宣言と司会進行はスカニアジャパン株式会社 営業本部 企画開発シニアマネージャーの廣岡 真幸氏。

活動の幅を広げるノーベル・メディアと、ノーベル・プライズ・ダイアログ

プレイベントの冒頭で登壇したのは、ノーベル・メディアABのラウラ・スプレッシュマン氏。ノーベル財団の設立の経緯を改めて紹介するとともに、1901年からスタートした「医学、物理、化学、文学、平和の分野において、人類に貢献した人へ贈る」という主旨で設けられたノーベル賞の意義を解説。ノーベル・メディアABの活動内容についても詳しく報告した。

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ノーベル・メディアABを代表して登壇したラウラ・スプレッシュマン氏。

ノーベル・メディアABが、そのノーベル賞の発表時期にスウェーデンで開催している「ノーベル・ウィーク・ダイアログ」の国外版となるのが、「ノーベル・プライズ・ダイアログ」。科学技術について広く啓蒙し、理解を深めてもらうことを目的としており、今回の東京2019では「The Age to Come 科学が拓く明るい長寿社会」をテーマに議論を深める。同イベントは韓国・ソウルやチリ・サンティアゴでも開催され、その活動は世界各地に広がりつつある。

近年は「Novel Prize Lessons」というWebサイトを開設し、ノーベル賞受賞内容に関連する教材の提供も行っている。受賞した研究の内容を教師が学生に理解しやすく教える際の助けになるもので、ノーベル賞発表後の24時間以内に公開するというスピーディさも特徴だ。またFacebook、Twitter、InstagramのようなSNSを活用して情報発信するなど、今やノーベル・メディアABの活動内容は多岐に渡っている。「こうした活動を長期的に続けていくには、サポートしてくれるパートナーが重要」とスプレッシュマン氏は強調し、その1社であるスカニアに謝意を示した。

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持続可能な輸送システムにはパートナーシップが不可欠

次に挨拶したスカニアジャパン CEOのミケル・リンネル氏は、「持続可能な輸送システム」を実現するためのスカニアの3つの柱を解説した。

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今の輸送システムの課題と取り組みについて語ったスカニアジャパンのCEOミケル・リンネル氏。

1つめは「エネルギーの効率化」。車両がエネルギーを効率良く使って走行するには、車両の性能だけでなく、運転するドライバーの管理や必要に応じた適切なメンテナンスも重要だ。2つめは「代替燃料と電気化」。持続可能な輸送を実現するには燃料のあり方についても考える必要があり、なかでも電気自動車化は有力な選択肢の1つとなる。

3つめの柱は「スマートで安全な輸送」。これについてリンネル氏は「データコネクティビティが非常に重要になる」とし、すでに同社では世界中で走行している32万5000台のコネクテッド化された車両から使用状況に関するデータを収集するなどして、輸送の効率化、最適化に向けた分析を行っている。

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こうした3つの柱においては、人の管理やインフラの構築が不可欠。スカニア1社では対応できる範囲に限界があり、だからこそ「パートナーシップが非常に重要になる」と、会場に集まった企業に訴えかけた。

日本における「Society 5.0」の目的とその注力分野とは

総合科学技術・イノベーション会議の常勤議員として、内閣府とともにSociety5.0の策定に携わった東北大学 名誉教授の原山 優子氏。

ゲストスピーカーとして登壇した東北大学 名誉教授の原山 優子氏は、日本の政府が主導する「Society 5.0」についてプレゼンテーションした。

「Society 5.0」(ソサエティー5.0)
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)

狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。

引用元:内閣府

原山氏は内閣府が管轄する総合科学技術・イノベーション会議の常勤議員として、Society 5.0の策定に関わった人物。狩猟・農耕・工業・情報社会に続く新たな概念として、同会議の第5期基本計画のなかで提唱されたのがSociety 5.0だ。

同氏はこのSociety 5.0を、日本政府の従来の科学技術政策にイノベーションの要素が加わったものだと語った。経済成長やグローバルの課題解決、そして東日本大震災後は復興においても「科学技術が貢献すべきもの」として盛り込まれ、「経済成長の戦略とイノベーション戦略が合体してSociety 5.0という政策になった」とした。

そうして提唱されたSociety 5.0は、それ以前の第4期基本計画までの「技術ありき」で「その技術を社会に貢献させる」アプローチとは異なり、まずは人を中心に置いて、その人のためにどんな技術が必要かを議論するのがコンセプトとなったとのこと。「未来に向かって日本の産業・社会構造をどういう方向にもっていくか、その提案としてSociety 5.0がある」という。

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このSociety 5.0のもと、原山氏は実際にプロジェクトがスタートしている注力分野のいくつかを紹介した。スカニアが関連する分野でもある「モビリティ」において、同氏によれば「今後最も必要」という3Dマップにフォーカス。「日本だけの地図システムではなく、他の国々とも連携しながらスタンダードを狙う」という方針で研究開発が進められている。

その他、これまで散在していた医療サービスを統合し包括的に提供できるようにすることを目指す「ヘルスケアとケアギビング」というテーマの医療分野や、東日本大震災のような大災害において事後に対応するのではなく、発生を想定したうえでプロアクティブな対策を考案する「防災」、農機具の自動化やAIなどを活用した市場データ分析によって、効率的でニーズに即した生産を可能にする「農業」などの分野で具体的に動き始めているという。

原山氏は「日本の課題は新しいビジネスモデルを考えること」であり、政府はその後押しをするためにも「レギュレーションをどうするか」が役割として求められていると主張する。また、社会的課題を解決するための技術開発については、「開発側も“まず技術から”という発想ではなく、社会的な課題を一緒に取り込みながら進める、というようなパラダイムシフトが必要なのでは」とアドバイスした。

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イベントの合間には、スウェーデンの人にとっては大切なコーヒーブレイクの文化「Fika(フィーカ)」の時間も用意。会場に用意されたコーヒーやお菓子をいただきながら、参加者や登壇者がリラックスした表情で歓談する姿が見受けられた。

輸送システム改善のポイントは「倉庫で商品が寝ている時間」と「非効率な輸送経路」

スカニアのAutonomous Solutionsを担当するホーカン・シェルト氏は、今後求められる「持続可能な輸送システム」に対してスカニアがどう取り組んでいくかを解説した。

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スカニア本社で自動運転ソリューションズ ヴァイスプレジデントを務めるホーカン・シェルト氏が登壇。現在スカニアが取り組んでいる未来への取り組みについて語られた。

シェルト氏によれば、効率的でスマートな輸送システムを目指すにあたり、現在の輸送システムには「制約」があるとする。それは、ドライバーが必要であり、内燃機関を使用していること。例えばドライバーについては、将来になっても不要になることはないとしつつも、長距離移動時の「最適化」が欠かせないと訴える。1人のドライバーが休みなく運転し続けることは不可能で、必ず途中で休憩する必要があるからだ。

効率的に輸送するには、トラック1台あたりの積載能力を高くするのも1つの方法だが、「それよりも輸送経路を工夫することが重要だ」とした。シェルト氏自身がオンラインショッピングで商品を注文したときの経験を例に挙げ、「ドイツ・フランクフルトにある商品がスウェーデン・ストックホルムまで届くのに、遠回りとなるパリなどを経由し、3日間かけて約15,000kmもの距離を移動していた」と話す。経由地の倉庫で12時間滞留していたタイミングもあった。

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トラックの移動は高速なため、実移動の時間は大きな問題ではない。それよりも「倉庫で商品が寝ている時間」が長いうえに、「輸送経路」が非効率であることが課題だ。物流全体のコストに占める割合も倉庫が39%と大きく、物流のプランニングも人の手作業によるところが多い。「スカニアはこれらを最適化しようとしている」とシェルト氏。倉庫と物流システムを最適化することにより、ドライバーの効率的な配置も可能になるはずだ。

同氏は将来の輸送システムについて、「自動運転車両が導入されるのはもちろんのこと、電気自動車化や走行中の充電が実現すると予測する。IoT技術によって物品ひとつひとつを正確にトラッキングできるようになり、フランクフルトからストックホルムまで最短距離で届けられることになる」とも話す。

輸送コストについても、「将来的に電気自動車に変わることで現在主流のディーゼルエンジン車に比べて10%削減し、自動運転車両の導入でさらに25%削減されるだろう」と述べる。2020年時点ではまだディーゼルエンジン車と電気自動車のコストはほとんど変わらないが、2022年からは電気自動車が最も低コストになるとも予想した。

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5G世界の到来により、モーターやバッテリーはパワフルながら小径化しつつ単価も抑えられると予測。近い将来、輸送システムのスタンダードが変わるとシェルト氏は語る。

シェルト氏は最後に、「123年の歴史をもつスカニアは、単にトラックやバスを作る会社ではなく、人が移動するためのソリューションを提供してきた会社である」と訴え、「これからの人々の環境、生活のために、非効率な輸送に別れを告げ、高齢者にもモビリティを届ける。今後25年くらいかけて新しい時代を作りたい」と語った。

物流の現場から見た、日本の物流業界が今すべきこと

プレゼンテーションの終わりには、Q&Aと、参加者が直接登壇者とディスカッションする時間が設けられた。Q&Aで水素を利用する燃料電池車「Fuel Cell」の可能性について問われたシェルト氏は、「Fuel Cellはすばらしいテクノロジーだ。レンジエクステンダー(電気自動車の航続距離を長く延ばすために搭載される小型発電機からなるシステム)などにも使えるだろう。しかし、水素をエネルギーに転換する部分で大きなロスが生じる」とし、あくまでも最終目標は電動化であるとした。

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スカニア本社の取り組みに対しての関心度の高さから、参加者からの質問はシェルト氏に集まった。

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スカニアを多く取り扱うトランスウェブの代表取締役社長を務める前沢 武氏は、日本の物流業界が抱える課題とその解消への取り組みの重要性を解いた。

スカニアの目指すところに賛同しながらも、日本の物流業界はその前にやるべきことがまだあると訴えたのが、イベントに参加していたトランスウェブ株式会社 代表取締役社長の前沢 武氏。「今やらなきゃならないのは、限られた時間でどれだけトラックを走らせるようにするか。車両が停まっている時間よりも、動いている時間が長くなるような運航体系に切り替える必要がある」とし、荷室上部の空間の効率利用も考えて積載効率を上げるなど、「業界として、輸送の考え方を変える必要があるんじゃないか」と提言した。

スカニアの「持続可能な輸送」と日本の「Society 5.0」がテーマに。「ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2019」プレイベント レポート

「持続可能な輸送システム」への取り組みを一層加速させると改めて意思を示したミケル・リンネル氏。

最後にミケル・リンネル氏が再び挨拶に立ち、「日本が進めるSociety 5.0、スカニアが目指す将来の物流、この2つの視点からみなさんの会社にアイデアをもたらしてほしい」とコメント。他の企業とのパートナーシップを見据えた「協創」という大きなチャレンジにトライし、「知識と経験を使って動き始めないとならない」と述べ、イベントを締めくくった。

かつてない速さで進化していく世界とともに

AI、ビッグデータ、IoTなどの技術で、今後数年のうちに世界の物流は大きく変わっていくのは間違いない。前沢氏の言葉から、現場レベルではまだ越えるべきハードルが少なくないことがわかるものの、スカニアの持続可能な輸送システムと、日本が指向するSociety 5.0の両方が実現、そしてそれが成功したとき、社会がどんな姿になっているのか──それが楽しみになるようなイベントだった。

Text:日沼 諭史
Photo:濱上 英翔

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