2018年10月に岡山国際サーキットで開催されたスウェーデンのトラックメーカー「スカニア」の新モデル「リジッドトラック」試乗会。実際に試乗したモータージャーナリスト遠藤 イヅルによる試乗インプレッションをお届けします。
新モデル「リジッドトラック」に実際に乗ってみた体感レポート
『SCANIA(スカニア)』の新モデル「NEXT GENERATION SCANIA」の「リジッドトラック」が2018年9月から発売が開始されたことに合わせ、日本法人スカニアジャパンでは岡山県美作(みまさか)市にある岡山国際サーキット本コースにおいて大試乗会「スカニア スペシャル テストアンドドライブ」を開催しました。
会場にて実際に試乗したカスタマーの声を中心にお届けした前編に続き、後編となる今回は前日に行われたメディア向け試乗会での試乗インプレッションとリジッドトラックの話題を中心にお送りいたします。
リジッドトラック=「単車」とは、キャブと荷台が一緒になっていて街中や高速道路で日常的に見かける代表的なトラックです。ではなぜ身近ともいえるトラックの試乗会に、わざわざサーキットを借り切るほどの大々的なイベントとして行われたのでしょうか。その理由も明らかにしていきたいと思います。
新モデルとして追加されたリジッドトラック試乗会当日の岡山国際サーキットは、見事に晴れ渡った。メインストレートにスカニアの大型トラックが並ぶ光景は圧巻。
まずは空荷の「P360」に乗り込む
メディア向け試乗会に用意された新モデルのリジッドトラックは全部で5台。そのうち4台がPシリーズ「P360」、1台がRシリーズの「R410」という内訳です。トラックには約10tの荷物積載の有無があり、空車と実車の乗り味の違いを体感できるようになっていました。モータージャーナリストの遠藤 イヅルはその中でP360の空車から試乗をすべく、岡山国際サーキットのメインストリートに並ぶP360に乗り込みました。新モデルでは、Pシリーズと360hpエンジンの仕様は初試乗です。
Pシリーズのキャブ内。上質で高級感あふれるインテリアだ。スタンダードモデルだがPシリーズの装備は必要十分以上。「廉価版ではなくスタンダード」と戦略的に販売していくモデルになる。加飾が少ないため、むしろ質実剛健さも感じさせる。
PシリーズはG/R/Sシリーズに比べると窓ガラスの位置とアイポイントは低めですが、乗り込むと視界は抜群。従来の現行型スカニアに比べて着座位置が前方フロントウインドウ寄りと側面に移動していること、ウインドウ下端の低さ、ピラーの低さが効果を発揮しています。少し硬めのシートは形状に優れ、座った瞬間にこれは長距離でも体に負荷がかからないだろうと思わせます。Pシリーズはスタンダードながらも内装の高級感は上位シリーズに即し、車間距離保持機能付きクルーズコントロール(ACC)、衝突被害軽減ブレーキ(AEB)、車線逸脱警報(LDW)、電子制御しき安定走行プログラム(ESP)など万全の安全装備、必要十分な快適装備を誇ります。
豊かなパワー、静かな室内、揺れないキャブ
メインストレートを発進する「P360 6×2 P17N」。17はデイキャブ、Nはノーマルルーフを示している。空車の場合はもちろんのこと、積荷がある状態でも十分な加速力を有する。
発進に向けてシートポジションを合わせ、キーをひねってエンジンをかけましょう。12段変速のAMT(オートマチック)「オプティクルーズ」をDレンジに入れます。この操作は、ステアリングポスト右に生えるレバーのリングを回すだけです。
コース上にいるスタッフからスタートOKのサインが出ると、ダッシュボードのレバーでパーキングブレーキを解除し、アクセルをゆっくり踏み込んで加速します。すぐに1コーナーが迫りますので、シフトレバーを下げてリターダーをオン。5段階あるうちの1〜2段を使います。空車ということもありますが、あっという間にコーナー通過指示速度の30km/h以下になってしまうほどリターダーはよく効きます。
岡山国際サーキットは13個のコーナーとそれを結ぶストレートがレイアウトされ、高低差も30m近くあるテクニカルなコース設計になっています。乗車前のレクチャーでそれぞれの箇所での最高速度を指示されるので、それを超えないように注意して運転します。スタートして4番目の右コーナーは急な上り坂。ここはアクセル全開です。空車でも10t以上ある大型トラックを、最高出力360hp(296kW)/1900rpm、最大トルク1700Nm/1050〜1350rpmを発生する直列5気筒9.29ℓの「DC09」エンジンはストレスなく加速させていきます。ストレートでは60km/hで走行。直進安定性の良さ、中立付近のしっかりとした手応えを感じることができました。
登坂がきつめのコーナーを登っていくP360を運転するモータージャーナリストの遠藤 イヅル。どんな速度域でも必要なパワーが出るよう、12段AMT「オプティクルーズ」は適切に自動でシフトダウンを行う。
写真のモデルは「P360」、キャブは「P17N」。ハイルーフに見えるがノーマルルーフで、キャブ内高さ1.8mを確保しているためドライバーは車内で立つことも可能。その広さが長距離での疲労軽減に有効に働く。頭上空間がいかに広いかは上の室内写真でご確認を。
コーナリングでのステアリングの応答性はとても良く、過敏ではなく安心して曲がっていける。フロントタイヤの接地感、路面からのフィードバックもしっかりしている。
バックストレートエンドのヘアピンはしっかり減速。6番目のコーナーは下りの左カーブで、指示速度内でも重量マスの大きな大型トラックでは要注意です。そんなカーブでも、新モデルは安定した姿勢で走り去ることができました。コーナーへの減速もほぼリターダーでコントロールできます。
短いストレートが終わるあたりで再び登り坂となりますのでここで一旦完全に停止し、坂道発進を体験します。トラクターの試乗会でも行った「ヒルスタート機能」ならブレーキペダルから足を離しても車両は下がらずにアクセルを踏むだけで発進できます。
残り3つのコーナーでもリターダーの効き具合の良さ、ハンドリングの応答性を確認。そして興奮冷めやらぬままメインストレートに戻ってきました。なお、オプティクルーズは手動変速も可能ですが、試乗時はすべてギアボックス任せにしての運転です。「今、ここでパワーが欲しい!」というときにも最適なギアがしっかり選ばれ、しかもシフトチェンジもスムーズでショックを感じません。
1周終えてメインストレートに戻って来たところ。Pシリーズは新モデルでもっとも乗降性に優れたモデルだ。視界の良さと広さはこの写真からも理解できるだろう。
新モデルのセールスポイントのひとつにキャブ内の静粛性があります。エンジンの振動や音はしっかりシャットアウトされるだけでなく、車外にいてもエンジンの音は静かです。また感心するのが、乗り心地がとても良いのに加速や減速時などでもキャブがほとんど揺すられないことです。これは長い時間運転する際の疲労軽減に大きく寄与すると感じました。
2回目の試乗では、約10tのウエイトをかけた実際の運送時に近い状態のP360に乗り込みました。試乗時のメニューも空車時と一緒なのですが、総重量25t近いはずのP360なのに積み荷があるとは思えないほどに軽快な走りを披露しました。空車時で「この坂は急だな」と思った箇所も難なく登っていくのです。
快走するP360。従えるトラックはRシリーズの「R410 4×2 R20H」。最高出力410hp(302kW)/1900rpm、最大トルク2150Nm/1000〜1300rpmを発生する直列6気筒12.7ℓの「DC13」を搭載。「20」キャブは大きなベッドを持つ「スリーパーキャブ」で、Hはハイルーフを表す。スリーパーキャブの場合荷室内寸法は9.35mとなる。
スカニアジャパンが満を持して送りだす「日本専用」のリジッドトラック
スカニアジャパンでは、これまでトラックの販売に関してトラクターをメインにしてきました。スカニアのトラクターはパワーがあり快適なこと、世界でも類を見ないV8エンジンがラインナップされていること、スカニアでないと牽引できない場合もあることから「指名買い」もあり、いわゆる「重トラクター」というマーケットではスカニアに大きな強みと購入する理由があります。そして新モデルのトラクターでは従来よりもさらに高級感を増した「Sシリーズ」や650hpを発生するV8エンジンも追加され、トラクター市場でのスカニアの存在感は一層強くなっています。
一方、今回追加されたウイングボディのリジッドトラックは、メーカーから納車される段階ですでに「ボディ」と呼ばれる荷台部分を持っている「完成車」で、ボディのサイドが大きく跳ね上がる「ウイングボディ」を備えています。日本の大型トラックでは一般的な仕様です。
つまり、リジッドトラックは国産4メーカーが激しくシェア争いを繰り広げている「一般的な大型ウイングボディの完成車」という市場に輸入車として本格的に参入していくことを意味しています。日本での販売台数アップ、シェア拡大のためにはリジッドトラックの販売は重要な戦略です。トラクターで高い評価を得た性能と快適性は、新モデルで一層磨かれています。リジッドトラックにもその性能やキャラクターはしっかり受け継がれていることが試乗でわかりました。
なお、日本市場で販売している海外メーカーでは、日本で使用される一般的なリジッドトラックは販売されていません。スカニアジャパンでは日本でのリジッドトラック販売に合わせ豊富なキャブとエンジンバリエーションを用意し、海外製のボディではなく日本の法規に即したボディを開発して架装していることからも、リジッドトラックに大きく力を注いでいることがわかります。
今回、スカニアジャパンが多くのユーザーを招待して大規模なリジッドトラック試乗会を開催した理由はまさにそこにあると言えましょう。
新モデルのスタンダードモデル「Pシリーズ」に組み合わされる、日本トレクス製のウイングボディ完成車。スカニアジャパンの戦略車種だ。
日本トレクス製ウイングボディをチェック
日本の大型トラック完成車で重要なのは「ボディの大きさ(内寸)」と「積載量」です。その目安として荷室内長さは約9.6m、高さ約2.6mが基準になっています。日本の法規では大型トラックには寸法(全長、全幅、全高)の上限値がありますので、リジッドトラックはキャブ長さを短くしたデイキャブ(17キャブ)で荷室内寸法約9.6mを確保。しかもトラックに備わっているエアサスを活用してトラック後部を大きく下げ、積み下ろしをさらに容易にすることも可能です。
最大積載量もPシリーズの17キャブでは13,500kgを達成、また全車低床の3軸シャーシによって荷室内高さは約2.6mを実現していますので、ウイングボディのリジッドトラックを運用するユーザーの要求をおおむね満たすことが可能でしょう。
3軸車で低床4軸車並みの荷台高さを実現したことは大きなトピックだ。エアサスを利用して後部を大きく下げることもできる。燃料タンクは3軸車の強みを生かして合計500ℓ入るので、一般的に燃料タンク容量が400ℓの低床4軸車にアドバンテージを持つ。
架装されるボディは日本トレクスが製作し、基本設計はP/Rシリーズとも同じです。ステンレス製リアフェンダー、ステンレス製工具箱、LED庫内灯、ギアをRに入れると運転席のモニターに後方の映像を映すバックアイカメラは全車に備わります。なお、Rシリーズではアオリのウイングロックや蝶番、リアドアパネルのロックロッドやドアヒンジがステンレス製となり、リアのオーバーハング部にもサイドバンパーが装着されて高級感が増します。
ドライバー環境、燃費、キャブ空間の最適化、安全性の4つの領域向上に焦点をあて開発されているスカニアのリジッドトラックは、キャブやエンジン、シャーシはスカニア製ですが荷台のボディは純日本仕様ですので、積み下ろしなどの運送業務上での特殊な扱いは要求しません。数千キロ単位の距離を走行し速度域も高いヨーロッパ仕込みの走り、排気量数値以上の強力なトルク、高級乗用車のような装備と高級感を持ちつつ、国産トラック同様に日常の業務で使用できます。これまで日本市場では存在しなかった、より良い仕事の相棒・道具になってくれることに違いありません。
G/Rシリーズのアオリのウイングロックや蝶番、リアドアパネルのロックロッドやドアヒンジはステンレスの加飾仕様となる。Pシリーズはいずれも鋼製。
PHOTO GALLERY
Text:遠藤 イヅル
Photos:Masato Yokoyama