近年、世界的に自動車の電動化が進んでいる。日本でも政府が「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」旨を発表、各自動車メーカーからも今後EV化に積極的に取り組む方針が発表されている。今回は日本に比べてEV化が進んでいる『SCANIA(スカニア)』の母国・スウェーデンのEV事情を紹介する。
(Photo_吉澤 智哉)
私は日本からスウェーデンに移住して6年となるが、スウェーデンではここ数年でEVを頻繁に見かけるようになった。2022年1月時点では、スウェーデン国内の乗用車登録台数は719万台であり、そのうち電気自動車(BEV)が12万5千台、プラグインハイブリッド(PHEV)は19万台で、それぞれ全体の1.7%と2.6%を占める。私の周りの友人や同僚もBEVやPHEVに乗り換える人が増えてきている。
赤 BEV(PB) 電気自動車(乗用車)
黄 BEV(LB) 電気自動車(商用車)
青 BEV(MC4H) 2輪や4輪バギー
緑 PHEV プラグインハイブリッド
グラフは充電可能車両における2012年からの4半期毎の登録台数推移。BEV(PB)とPHEVを合わせても全体の4.3%(2022年1月時点)とまだまだ少数派ではあるものの、過去10年間の伸び方を見ると急激な勢いで増加している。(出展 www.elbilsstatistik.se)
また日本でのEV普及率は0.7〜1.2%(2021年1〜8月)となっており、日本よりもスウェーデンの方がEV化が進んでいる。
インフラ状況
日本でEV普及が進まない理由の一つとして、まだまだインフラが整ってない点があげられるが、私が住むストックホルム近郊ではインフラは整いつつある。私はTeslaのModel 3に乗る一人だが、下図のストックホルムを中心とした充電設備を示すマップの通り、充電設備は数多く存在し、日常生活の中で充電ができずに困った経験はない。
橙 充電器 22kw
青 充電器 50kw
紫 急速充電機 100kw以上
赤 Teslaスーパーチャージャー 150kw~250kw
出展 ChargeFinder
近所のTeslaスーパーチャージャー、タクシーもよく見かける。(Photo_吉澤 智哉)
勤務先でも充電は可能。私の会社でも昨年充電器が設置された。(Photo_吉澤 智哉)
また、EVは寒冷地に向かないというイメージがあるかもしれないが、冬には−5℃近くまで気温が下がるストックホルムでも、車を運転する中で不便さを感じることはない。夏場と比べれば若干走行距離は減るものの、100km以上の長距離移動含めほとんど問題は無い。強いて問題点をあげるとすれば、急に外出する必要が生じた際に、悪条件が重なってしまうと車を使用できないケースがある点だ。
悪条件とは外気温が一桁、バッテリーがほぼ空で、かつバッテリーの温度が冷えている状態である。例えば冬場に遠出をしてバッテリーがほぼ空の状態で帰宅をし、自宅で充電をし始めて、ちょうどバッテリーが冷えた1時間後に急な遠出をしたくなったとする。そのような場合には急速充電が必要になるのだが、バッテリーが冷えた状態だと出力が出ない(バッテリーを充電する最適温度まで温める為には30分ほどの時間が必要となる)。
急速充電は、条件がそろった時には数十分もあればバッテリーの100%近くまで充電できるのだが、前提条件が崩れてしまうと、とても急速とは言えなくなる。このような問題を回避するには、帰宅前に急速充電を行えばよいのだが、わが家の場合は、幼い子どもが帰宅寸前の寄り道を許してくれない。逆に夏場はバッテリーが熱過ぎて充電がうまくいかないこともある。このように、従来のガソリン車には無かった特徴が幾つかあるので、こういった点への慣れが必要となってくる。
最大300kW出力の急速充電器も各地に設置されるようになってきた。(Photo_吉澤 智哉)
EVが売れる背景
私の周りで、EVに乗り換えている理由で一番多いのはやはり環境的な観点である。車好きの50代の同僚は最近EVに乗り換えたのだが、彼自身は元々EVへの関心は高くなかったのだが、大学生の娘達に「環境の為にEVにしてほしい」と頼まれたことがきっかけで購入を決めたという。
近年、ドイツで起きた洪水等、これまで経験をしたことのない規模の自然災害に見舞われた欧州の人々にとって、気候変動は喫緊の課題として受け止められている。二酸化炭素の排出が地球温暖化に影響を与えているとして、これを抑制するための政策が民衆の支持につながることから、欧州各国は環境対策としてガソリン・ディーゼル車の生産を2035年までに禁止するという方針を発表している。これらが本当に二酸化炭素の排出を抑制し、気温上昇を抑え、自然災害を減らすことにつながるのかはまだ誰にも分からないが、何もしないよりも何かを仮定し行動をしようという前向きな国民性には希望を感じる。
(Photo_Simon Paulin/imagebank.sweden.se)
このように環境を理由にEVを選択する人が大多数ではあるが、環境的な観点だけなく、ランニングコストの安さ、EV購入補助金制度などのコスト的な観点や国民性として新しいものへの関心が高いという理由が普及の背景にあるようだ。
実は、EVはランニングコストがガソリン車に比べて安い。高速充電の利用はコストがかかるが、自宅で充電をすればコストは抑えられ、結果的にガソリン車やディーゼル車より燃料費も安くなる。加えて購入時のEV購入補助金制度が、元々最高で日本円で約67万円相当だったが、2021年4月より更に約13万円ほど増額された。余談だがスウェーデンの隣国ノルウェーでは、EV購入において付加価値税25%が免除される。つまり、EVは車体価格から25%税金を免除されて購入できることになり、それに伴ってスウェーデンとは比較にならないレベルで普及している。
EVのカーシェアも目立ってきた。購入、リース、シェアリング、サブスクリプションというように、EVは”マイカー文化“にも影響を与え始めていて、私の周りではリースを利用する人も多い。バッテリーにも様々な種類があるため、どれを選べば良いか判断に迷うことや、急速充電がバッテリーに悪い影響を与えるというイメージを持つ人もいるため、気軽に試せるリース車に人気が集まっている。(Photo_吉澤 智哉)
充電中の青いバスは電動バスで、まだまだ数は少ないものの実際に運行されている。従来のバスはエンジン音が大きいので乗用車以上に静かさが際立つ。(Photo_吉澤 智哉)
多少不便であっても習慣を重んじがちな日本とは対照的で、スウェーデンの国民性として新しいものが出てくるとそれを拒むよりも受け入れてみようという風潮がある。EVの分かりやすいセールスポイントは従来のガソリン車ではスーパーカーでしか味わえなかったような大トルクによる加速が味わえ、これまでの車の概念を変えつつある点だ。その他にもインターフェースやスマートフォン経由で遠隔から操作できる点など、新しいモノ好きな国民性がそういった点に次々と反応し、試し始める。彼らはネガティブな面よりもポジティブな面にフォーカスしている。
私も正直テスラ購入の少し前まではそれほどEVに興味が無かったが、今となっては、その魅力に憑りつかれてしまった一人だ。EVに対してネガティブな印象を持っている人には是非一度乗ってみてほしい。従来の車好きだけでなく、EVという新たなカテゴリーに惚れ込む人が増えるかもしれない。
Text:吉澤 智哉
Main Photo:sofia_sabel-electric_vehicles-8084