長く厳しい冬が終わりを迎え、春の訪れを告げるかのようにやってくるのが、イースター(復活祭)です。スウェーデン語では、イースターのことを「Påsk(ポスク)」と呼び、クリスマスや夏至祭と並ぶ最も重要な年中行事の一つです。イースターが近づくと、色とりどりの「羽飾り」が木々に飾られ、カラフルなチューリップや黄色い水仙が町の至るところで見られるようになり、待ちに待った春の兆しに、人々の心が華やぎます。今回は、あまり知られていないスウェーデンのイースターについてご紹介します。
春が近づき、徐々に暖かくなってきた街の様子(Photo_Aline Lessner/imagebank.sweden.se)
イースターって、どんなお祭り?!
クリスマスに比べると、まだまだ日本では知名度が低いイースター、本来は、復活祭という名称からも想像されるように、キリストの復活を祝うキリスト教のお祭りです。キリスト教ではイースターは最も重要な行事とされていますが、スウェーデンでは既に宗教色は薄れ、長く厳しい冬が終わり訪れた春を家族や親戚、友人とともに祝う行事となっています。
移動祝祭日であるイースターは毎年日にちが異なり、3月下旬から4月中旬の週末にあたります。2020年は4月10日から13日がイースターの祭日になります。聖金曜日からイースターマンデーまでの4連休となる週を「Påskveckan(ポスクベッカン)」と呼び、子どもたちはその週の前後どちらかの週を含めて10連休のイースター休暇となります。オフィスやお店が休みになることも多いため、クリスマス同様に休暇を取る人が多く、家族や親戚で集まってお祝いをすることが多い行事です。
イースターの時期、至るところで見られる飾りがされた木々たち(Photo_Lola Akinmade Åkerström/imagebank.sweden.se)
イースターの魔女がやってくる?!
スウェーデンのイースターのお祝いの始まりは「聖金曜日」の前日の聖木曜日に、子どもたちが頬を赤く塗り、そばかすを付けて、スカーフを巻き「Påskkärring(ポスクシャーリング)」と呼ばれる魔女に仮装し、アメリカのハロウィンのようにお菓子をもらって歩くことから始まります。聖木曜日は正式な休日ではないのですが、半日休みになる学校や職場が多く、スウェーデンのイースターに欠かせません。なぜ魔女に仮装するのかというと、その昔の魔女狩りに由来するともいわれており、イースターの前の木曜日に箒にのって「Blåkulla(ブロークッラ)」と呼ばれる青い丘へ飛んでいき、復活祭の日曜日に戻ってくるという古い言い伝えがあるためです。1800年代から続いているといわれるこの風習、地域によって聖土曜日に行うところもあり、今でもスウェーデン語の「ハッピーイースター!」にあたる「Glad Påsk! (グラード・ポスク)」と言いながら近所を回りお菓子をもらう子どもたちの姿を見かけることができます。
この時期に街に溢れる魔女の仮装をした子ども達(Photo_Fredrik Nyman/imagebank.sweden.se)
魔女の仮装をして近所を回り、お菓子をもらう子ども達(Photo_Lena Granefelt/imagebank.sweden.se)
イースターエッグと大量のお菓子
イースターといえば、カラフルな色や絵で装飾された「Påskägg(ポスクエッグ)」と呼ばれるイースターの卵です。卵は新しい生命の誕生、復活の象徴であり、スウェーデンのイースターに欠かせません。本物の卵をゆでて、家族みんなで色を塗ったり絵を描いたりして、お祝いの準備をします。そして、何より欠かせないのが、スウェーデン人が好んでやまない「Godis(グーディース)」と呼ばれるお菓子です。グミやチョコレート、キャラメルや飴、リコリスなどのお菓子の総称で、普段から土曜日は「Godisの日」とされ、このお菓子を食べる習慣があるのですが、イースターには、卵型のチョコレートやキャンディー、うさぎやひよこの形をしたグミやマシュマロなども出回り、これらのお菓子を卵型の入れ物に入れてプレゼントするのがスウェーデン流です。このお菓子、なんと1200年代から食べられており、当時高級品であった砂糖で作られたお菓子を食べることはこの上ない贅沢であったそうです。今では簡単に手に入るお菓子ですが、この伝統は守られ、イースター週間だけでスウェーデンでは毎年6000トンものお菓子が売られます。
お祝いの準備のため、卵に色を塗る子ども達(Photo_Lena Granefelt/imagebank.sweden.se)
イースターで食べられる代表的なお菓子、卵型チョコレート(Photo_Lola Akinmade Åkerström/imagebank.sweden.se)
イースターエッグに入った「Godis(グーディース)」(Photo_Magnus Liam Karlsson/imagebank.sweden.se)
色鮮やかなイースターの飾り
スウェーデンでは、クリスマス同様にイースターに合わせて庭や家の中を飾り付ける習慣があります。イースターの頃は、だいぶ春らしくなったといってもまだまだ寒さが残る時期で、木々に新緑は見られません。そんな木々を彩るのが「Påskris(ポスクリース)」と呼ばれる白樺などの枝に卵の飾りやカラフルな色の「羽飾り」を飾ったものです。色鮮やかな卵や羽が人々の心に華やかさをもたらします。この他にも、イースターバニーで有名なうさぎは、スウェーデン語では「Påskhare(ポスクハーレ)」と呼ばれ、ひよこの置物と並んで人気があります。イースターのメインカラーは黄色とされており、イースターの花も「Påsklilja(ポスクリリア)」と呼ばれる黄色の水仙が一般的です。
イースターの飾り付け用に、春の花を摘む子ども達(Photo_Ulf Lundin/imagebank.sweden.se)
イースターでよく見られるカラフルな飾り付け(Photo_Fredrik Nyman/imagebank.sweden.se)
町に咲く黄色い水仙の花(Photo_Mona Loose/imagebank.sweden.se)
卵が欠かせないイースターの食事
スウェーデンでは、イースターの食事は聖金曜日に食べられることが多く、内容は卵とラム肉や魚料理というのが一般的です。近年では、ビュッフェ形式にして、ニシンの酢漬けやミートボール、スウェーデンのジャガイモ料理の定番「ヤンソン氏の誘惑」などを食べる家庭も増えてきましたが、クリスマスや夏至祭の食事に比べると簡素な印象を受けます。テーブルコーディネートは黄色で統一され、チューリップや水仙などの花が飾られます。デザートも卵を形どったものや黄色が用いられたものが出されることが多く、イースターエッグのお菓子とともに食べられます。飲み物は、クリスマスの時に好んで飲まれる「Julmus(ユースムス)」によく似た「 Påskmus(ポスクムス)」と呼ばれる、コーラに似たドリンクが欠かせません。もちろん、イースター用のビールやスナップス(Snaps)やヌッベ(Nubbe)と呼ばれるアルコール度が30度を超える蒸留酒もよく飲まれ、家族や親戚、友人と楽しいひと時を過ごします。
スウェーデンのイースター、いかがでしたでしょうか。イースターとともに春の訪れを実感し、スウェーデンの人々はいよいよ心待ちにした夏の到来を実感します。
お菓子だけでなく食事でも卵が多く使われる(Photo_Elliott Elliott/imagebank.sweden.se)
イースターの食事は卵とラム肉や魚料理などが多い(Photo_Jakob Fridholm/imagebank.sweden.se)
Text:サリネン れい子
Main Photo:Lena Granefelt/imagebank.sweden.se