重量物輸送で圧倒的な存在感を示す、スカニアのトラクター
世界有数の規模を誇るトラック・バス・産業用エンジンメーカーの『SCANIA(スカニア)』。日本市場でも2009年にスカニアジャパンが設立され、全国各地の様々なシーンで活躍の場を広げている。
スカニアの主力製品であるトラック・トラクターは、発進・登坂時での力強い加速を可能とする豊かなパワーとトルクを発生するエンジン、優れた効きを示す流体式リターダー、的確なハンドリング、スムーズでショックが少なく常に適切なギアを選択する12段AMT「オプティクルーズ」、広く快適なキャビンや、乗り心地が良いことによる長距離運転時の疲労の少なさなどにより、カスタマーから高い評価を受けている。中でも、車両総重量50tを超えるようなトレーラーを牽引する重量物輸送用トラクターの市場では、特に圧倒的な存在感を示している。
ニーズに合わせて展開される、さまざまなスカニアトラックをご紹介!第3回 〜重量物輸送用トラクター編〜
ところで重量物輸送では、建設現場で用いられるクレーンを積むことも多いが、重機の種類や大きさによっては、公道走行ができないような巨大なものもある。この場合、どのようにしてクレーンが設置される現場に持っていくのかというと、なんとクレーンを本体・ブーム・クローラ・キャリアなどの細かい部材に分解し、トレーラーに載せて運ぶという方法をとっている。
そのため、自社の巨大重機を輸送するために、トラックやトラクター+トレーラー(トレーラーセット)も同時に保有する企業も存在する。東京都江東区に本社を置く、株式会社大矢運送もそのひとつで、30台以上の輸送用トレーラーセット・大型トラックを保有している。
東京23区内に本社を置き、都心はもとより日本各地の大規模建設に携わる大矢運送
都心エリアが至近の東京都江東区新木場に本社を構える、株式会社大矢運送。広大な敷地には、同社が保有するオールテレーンクレーン、ラフテレーンクレーンなどの重機や、分割しないと運べない、巨大クレーンの部材輸送用車両が並んでいる。同社のトラクターとトレーラーはそのために導入されているが、他のクレーン業者からの輸送依頼も受けられるよう、緑地の「営業ナンバー」で登録されている。
大矢運送は、1961年に東京都江東区扇橋で創業。大型・小型トラックによる運送事業を営みながら、1967年に1台目のクレーンを導入後は積極的にクレーン事業を拡大して、旺盛な建設需要に対応している。2023年3月現在で移動式クレーンを147台(!)有し、全国各地の建設・解体現場で同社のクレーンが活躍中だ。147台の内訳を見ると、120t〜750t吊りのクローラクレーン(公道走行不可)が44台、100t〜550t吊りのオールテレーンクレーンが23台、13t〜100t吊りのラフテレーンクレーンが80台となっている。社員数は約230名で、約150名がクレーンオペレーター、約30名が輸送用ドライバー、約10名がクレーンの組み立て・解体担当という大きな規模を誇る。
モダンな新本社ビルは、まるで商業施設のような美しさ。脇を走る大通りからは、クレーン業を主に行っている企業であることや、奥に大きなクレーン車が並んでいるとは想像できない。オフィススペースも洗練されており、お洒落なラウンジスペースも設けられている。
大矢運送カラーの青と黄色・赤をまとったクレーンは、全国各地の橋梁工事・発電所建設工事などで活躍が見られるほか、都心の大規模再開発工事も得意としており、近年では東京オリンピック2020に向けて作られた施設の建設、閉業したお台場・パレットタウンの大観覧車解体なども手がけている。
お台場・パレットタウンの大観覧車解体の様子。(写真提供:大矢運送)
大矢運送最大の強みは、本社とヤードが東京23区内の江東区新木場にあることだ。現在の本社は、2015年に同区辰巳にあった本社機能と辰巳第1・新砂2モータープールを統合して置かれたもの。郊外に敷地を構えるよりも短い距離で、かつ迅速にクレーンを移動させることができるので、車両の回送時間の短縮と輸送コストの削減のみならず、事故リスクの削減も可能となる。
分解輸送が必要な巨大クローラクレーンや、車体が大きなオールテレーンクレーンを現場に持っていくだけでも一苦労なのは想像に難くないが、同社は東京駅界隈まで乗用車・一般道で概ね30分以内に到着する新木場にヤードを持つため、立地的なアドバンテージはかなり大きい。荒川を渡らずに都心に移動できる新木場は、クレーン業界にとっては「一等地」なのだ。
新本社ビルと同時に建てられた本社機械センター(駐車場・部材置き場)。1階には550t吊りオールテレーンクレーンなどの大型重機が並ぶほか、2階・3階にも重機を駐機しておくことが可能。そのため、通常の建物よりも強固な建築部材が用いられており、作りも極めて堅牢だ。このほか東日本支店 千葉機械センター(千葉県東金市)には、分解して輸送が必要なクラスの大型クローラクレーンやオールテレーンクレーンなどが置かれている。
巨大なクレーンの部材を運ぶためのトラクターとしてスカニアが大活躍
大矢運送が持っているクローラクレーンが、どのくらい巨大で、どれほど大きな事業に投入されているのかがわかるショット。トラクターが牽引するトレーラーで部材を運び、建設・解体現場で組み立てるのだが、写真のリープヘル(LIEBHERR)製「LR1750 HS800」(750t吊り)では、その分割数は数十パーツに及ぶという。なお組み立てには、他のクレーンを用いる。(写真提供:大矢運送)
オールテレーンクレーンは公道を自走できるが、例えばこのクラス(TADANO 550t吊り AR-5500M)になると、高さ制限の関係でそのまま路上を走ることができない。そのためブームとその基部を外し、トレーラーセットで輸送する。(写真提供:大矢運送)
前述の通り、公道走行ができない巨大なクローラクレーンは、分解してトレーラーセットで輸送するのだが、自走できるオールテレーンクレーンの中には、車体が大きすぎてブームを背負うと公道を走れなくなるタイプもあり、この場合はブームを外しトレーラーセットに載せて運ぶ必要がある。いずれにせよ、それらの重さは数十トンに達するため、牽引するトラクターの性能が重要視される。そこで大矢運送では、2015年からV8エンジンを搭載したスカニアトラクターの導入を開始した。
(写真提供:大矢運送)
大型クローラクレーンの部材の形状や設置先に合わせた柔軟な輸送ができるよう、保有するトレーラーの種類は豊富だ。先代のスカニアトラクターが牽引するこのトレーラーは、50tを運べる日通商事(現:NX商事)製の5軸エアサス車「NT50F002」。伸縮フレームの採用により、荷台長12.66mから16.16mに伸ばすことができる。上写真では、オールテレーンクレーンのブームを、下写真ではフレームを延長の上、クローラクレーンのクローラ(足廻り)部分を運んでいる。(写真提供:大矢運送)
こちらはオランダの「ノーテブーム(NOOTEBOOM)」社製トレーラー「MCO-61-03V」。こちらは伸縮だけでなく拡幅も可能な構造のため、荷台長は9.1mから15.1mへと伸び、幅も3mから3.5mに拡げられる。最大積載量は35.6t、車両総重量は49.66tに達する。写真は、最大の長さに延長した状態。
スカニアの象徴である16ℓV8エンジンの500馬力オーバーの高出力と、総重量50t以上のトレーラーも容易に引っ張る強いトルクは、大きなクレーンの部材輸送というシーンでは、よりその力を発揮する。また、クレーンを使用する工事現場は日本全国に及ぶため、部材輸送のトレーラーセットも長距離移動を行うが、スカニアなら長時間の運転でも疲れが少なく、ドライバーへの負担も軽い。そのため同社ではスカニアの導入が続いており、記事執筆段階でトラクター7台、フラットベッドのリジッドトラック1台の合計8台という陣容となっている。さらにトラクター2台の追加も、すでに決まっているという。
また同社では、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に賛同。持続可能なまちづくり、再生可能エネルギー発電設置工事、自社太陽光発電システム、スポンサー活動による地域振興、平等で幸福な職場環境づくりなどの活動を通じて、アクティブにSDGsに取り組んでいることから、輸送機器業界のサステナブル先端企業であるスカニアとの親和性も、極めて高いといえよう。
取材日には、2023年3月現在で大矢運送が運用するスカニア7台のうち、6台が集まった。うち4台は現行型のR520の3軸(6×4)・エアサス仕様だった。エンジンはスカニアの象徴である16ℓV8「DC16」型で、最高出力520馬力(302kW)/1900r/min、最大トルク2150Nm(1000-1300r/min)という高性能。
同社にスカニアが初導入されたのは2015年。最初の2台は、いずれもR580だ。写真のトラクターが牽引するトレーラーは、太陽化学工業所の16輪伸縮舵切り車で、最大積載量は52t。
大矢運送が運用するスカニアの多くはトラクターだが、フラットベッドを組み合わせたリジッドトラックが1台存在する。日本国内では極めて希少性が高い仕様だ。キャブはR410のデイキャブ+ノーマルルーフを備える。R410に搭載されるエンジンは、「DC13」型12.74ℓ直6ディーゼルターボ。最高出力410馬力(302kW)/1900r/min、最大トルク2150Nm(1000-1300r/min)を発生し、スムーズな変速を実現する12段AMT「オプティクルーズ」によって後輪に伝達される。
巨大なクレーンの部材を運ぶためのトラクターとして、スカニアは最適な車両
このようにスカニアを積極的に増やしている株式会社大矢運送 代表取締役社長 大矢 一彦氏は、スカニア導入によって得られる直接的なメリットを、次のように語った。
「分割された大型クレーンは大きな機械なので、イメージがつきにくいと思うのですが、実は安全装置や精密なコンピュータなどが搭載されており、移動には揺れを抑える配慮が必要です。そこで、トレーラー・トラクターともにエアサスが必要となるのですが、3軸のトラクターでエアサスを備えているのは珍しく、その仕様をラインナップに持つスカニアが、選択肢に入ってきます。さらに、同業他社様からクレーン部材輸送のご依頼をいただくこともあり、トラクターもエアサスという車両を持つことは、大きなアピールになっています。もちろん、重たい部材を運ぶためのスカニアのパワーは魅力的です」
柔らかな雰囲気の奥に、力強い意思を感じさせる株式会社大矢運送 代表取締役社長 大矢 一彦氏。都心に近いエリアに本社を構えるなどの大胆な戦略を行う一方、美しい本社ビルに仮眠室やシャワールームを設けたり、業務のデジタル化・スマートフォンを活用した安全管理システムの導入を進めたりなど、業務・環境改善のためのきめ細やかな配慮や気配りも欠かさない。
「これから導入する車両に関して、弊社のドライバーにもヒアリングしたところ『スカニアがいいのではないか』という話が出ました。私たちがトレーラーで運ぶ部材は、設置する場所が広くなかったり、アプローチに強い勾配があったりするのですが、そのような際にスカニアを使ってみると、スカニアは細かな操縦性が可能で、パワーがある、という評価を聞いています。弊社のトラクターとして、スカニアは最適な車両だと思います」
またこの他にも、スカニアの導入により生まれた「数字や目に見えない副次的な効果」についても、このように教えてくださった。
「お客様からも、スカニアはとても評判が良いです。看板車として、営業的なツールとして役に立っている実感があります。大矢運送のトラクターといえばスカニア、というイメージも浸透させることができたのではないでしょうか」
「スカニアは弊社に最適な車両」と、スカニア導入のメリットを語る大矢氏。手前に並ぶ1/50サイズのスカニアは、大矢運送特注のミニチュアモデルだ。
日本の各地へ長距離を走ると感じる、スカニアの快適性
続いて、実際に同社でスカニアに乗務し、当日は撮影のために車両の移動を行ってくださった4人のドライバーにも、話を聞くことができた。
まず話題に上ったのは、下り坂での停車や減速に関する使い勝手の良さだった。重量物を積む重トレーラーでは、その性能は留意したいポイントである。
「下り坂の速度制御が一定です。例えば40km/hで設定すると、速度がブレずにそのまま下っていきます。そしてブレーキを踏んで停車すると、自動でサイドブレーキがかかるので、坂道での再発進などで気を使わずに済むのは嬉しいです」
そしてやはりスカニアといえばパワー。
「発進時の出だしは、それまで乗っていた国産車とは随分違いますね。スカニアだと、どんどん引っ張り上げてくれる感覚があって、運転がラクです」
長距離運転時の感想も、お聞きしてみた。
「日本全国、遠方まで走るのですが、キャビンが広くて静かなのと、乗り心地が良いので長い時間運転しても疲れが少ないです。ベッドの寝心地も素晴らしいです」
取材日に集まっていただき、スカニアに関するお話をしてくださった4人のスカニアドライバー。左から大塚 修氏、大山 真礼氏、井上 貢一氏、そして三上 良明氏。大きなスカニアトラクター+トレーラーを、スピーディーかつ正確に撮影ポジションに移す、その見事な腕さばきに取材陣も感動。
「スカニアで仕事をしていると気分がいいです。『写真を撮っていいですか!?』ってよく尋ねられます。スカニアに乗るまではこういうことはなかったので、誇らしいですね」という感想も印象的だった。
『HUMAN OHYA』の精神は、スカニアにも通じている
大矢氏が率いる大矢運送は、人や社会に優しい企業として『HUMAN OHYA』というテーマを掲げており、従業員の労働環境改善、環境負荷の少ない最新型重機の積極的な導入などを進めている。
そのため、重量物輸送に強く、ドライバーの労働環境を改善し、環境性能にも優れ、巨躯でありながら洗練されていて、どことなく優しさを漂わせるスカニアは、大矢運送の『HUMAN OHYA』の精神にも通じていると感じた。そんな大矢運送のスカニアもまた「優しい巨人」と呼べるのかもしれない。スカニアは、まさに同社に最適な車両ではなかろうか。
今日も全国のどこかで、大矢運送のスカニアトラクターが建築現場に駆けつけ、私たちのより便利な生活を実現するために貢献していることだろう。「優しい巨人」たちの活躍を、今後も応援していきたいと思う。
春近い新木場の、抜けるような澄んだ空気と青空の下、青と黄色のボディに赤いシャーシのスカニアが映える。
PHOTO GALLERY
Text:遠藤 イヅル
Photos:Masato Yokoyama