「二階建てバスとスカニアのはしご車が夢の共演!」記事後編は、スカニア製二階建バス「J-InterCity DD」をご紹介
愛知県名古屋市中川区に本社を置く、ジェイアール東海バス株式会社(JR東海バス)に、名古屋市消防局中川消防署のスカニア製消防車が来場するという報を受け、早速名古屋市に向かったGRIFF IN MAGAZINE取材チーム。現地では、スカニア製二階建てバスとスカニア製消防車が揃うという、とても貴重なシーンを見ることができた。
2台ともに主演級車両のため、一つの記事に収めるよりは「前・後編」に分けて詳しくお送りしたいと思い、前編は、スカニア製のキャブ・シャーシ・エンジンを用い、モリタテクノスが供給するドイツの「マギルス(Magirus GmbH)」がはしご車としての艤装を行なったスカニア製消防車をご紹介した。
続く後編は、もうひとつの主役であるJR東海バスのスカニア製二階建てバス「J-InterCity DD」を詳しく掘り下げてみたい。
JR東海バスの高速路線バスで活躍するスカニア製二階建てバス「J-InterCity DD」
ジェイアール東海バス株式会社(JR東海バス)では、名古屋〜東京間を結ぶ高速バス「新東名スーパーライナー」に「J-InterCity DD」を運用している。スカニア製シャーシ・エンジンと、ベルギーの「バンホール(VANHOOL)」製の車体を組み合わせた「スカニア・アストロメガTDX24」をベースに、JR東海バス独自の室内装備を備える高速路線用二階建てバスだ。
JR東海バスは、旧国鉄バスを継承する形で1988年に設立されたJR東海グループのバス事業者である。24時間体制での運行管理、乗務員への安全教育・訓練、車両への安全対策・徹底したメンテナンスにより、貸切バス事業者安全性評価認定制度で最高位の「三ツ星」を獲得している。
2022年6月現在、名古屋支店・静岡支店・名古屋旅行センターを構え、東海・中京エリア~東京・京阪神エリアを主体に、名古屋〜高山・甲府、北陸地方・中国地方・四国地方などを結ぶ高速路線バスを運行するほか、貸切バス事業、旅行業、損害保険代理店業、カーリース業、不動産賃貸業などの事業を幅広く行なっている。前身は国鉄バスで、さらに遡ると第二次世界大戦前からバスを運行していた省営自動車(かつては鉄道省だった)という長い歴史を持つ。
そして2020年6月から、同社ではスカニアの二階建てバス「J-InterCity DD」を順次投入。現在「J-InterCity DD」は6台まで増強され、名古屋〜東京間を新東名高速道路経由で走る昼行便の「新東名スーパーライナー」の一部、および夜行便「ドリームなごや」の一部で活躍している。
「スカニア・アストロメガTDX24」の高速路線仕様が「J-InterCity DD」。フロントドアの脇には、そのロゴマークが貼られている。
スカニア製二階建てバスは、各社が導入を進める「日本の新しい二階建てバス」
スカニア製の二階建てバスは、エンジン・シャーシなど走行・駆動系部品をスカニアが、車体をベルギーのバンホール(VANHOOL)が製造する純欧州製バスだ。スカニアでは、日本向けを「アストロメガTDX24」と称している。2016年に株式会社はとバスが初めて採用して以来、着実に台数を増やしており、貸切観光バス用以外にも、さまざまなバス事業者が高速路線バス用に導入を進めている。まさに「日本の新しい二階建てバスのベンチマーク」と呼んで良い存在だ。なお、高速路線バス仕様は近年「J-InterCity DD」と呼ばれるようになった。
車体の大きさは、日本の法規に合わせた専用設計により、全長12m・全幅2.5m・全高3.8m未満に収まっている。
GRIFF IN MAGAZINEではこれまでも、スカニア製二階建てバス日本導入の契機を作ったはとバス、成田空港や東京ディズニーリゾートに向かう便に投入した京成バス株式会社、都市間連絡バス「106特急」で運行する岩手県北自動車株式会社、貸切観光バスサービスを展開する有限会社オートウィルなど、各社が導入したスカニア製二階建てバスを紹介しているので、併せてご覧いただきたい。
京成バスが導入したスカニアエンジン搭載二階建てバスは、成田空港アクセスの新しい顔〜京成バス株式会社様〜
東北初のスカニア製二階建てバスは、復興への夢も乗せて走り出す 〜岩手県北自動車株式会社様〜
スカニア製二階建てバスが運ぶ、貸切観光バスの新しい価値 〜有限会社オートウィル様〜
「J-InterCity DD」には、青と白にオレンジ文字のJR東海バスカラーもよく似合う。ボディサイドの「つばめマーク」は、JR東海バスの前身である国鉄バスから継承された、由緒正しいアイコンだ。リアの窓下にあるステンレスのルーバー内には、エバスペヒャー製の空調装置が収まる。
リアのハッチを開けると出現する、スカニア製直列6気筒12.74ℓディーゼルエンジン「DC13 115」。410psの最高出力と2150Nmの最大トルクを発生する。欧州のEuro6、日本の平成28年(2016年)規制の排ガス規制をクリアしており、高出力と省燃費性能・優れた環境性能を高い次元で両立する。
眺望の良さ、乗り心地の良さ、ゆったりした車内で快適な移動が可能
各社で高速路線バスとして使われるスカニア製二階建てバスは、首都圏〜中京圏、首都圏〜関西圏など、長距離を走る便が含まれる。前者で約350km前後、後者では約500km前後に達するため、乗客の快適性向上に大きくフォーカスする必要がある。そのため、今回取材したJR東海バスの「J-InterCity DD」のように、二階席を独立の3列シートとし、ゆったりとした配置の仕様で走らせるバス事業者も数多い。
JR東海バスの「J-InterCity DD」では、二階に3列クレイドル・シートを、一階に4列シートを配する。定員は二階29名+一階10名の合計39名。
フルリクライニング状態のクレイドル(ゆりかご)シート。シートピッチも広く、快適な移動を可能とする。
JR東海バスの「J-InterCity DD」では、二階に「クレイドル(ゆりかご)シート」と呼ばれる大きめのシートをチョイス。背もたれが深く倒れるだけでなく、リクライニング時には座面も前にスライド。可動式の枕や、レッグレスト+前側シートから展開されるフットレスト、29席というゆったりとした座席配置も相まって、快適でリラックスしたポジションを得られる。また各シートにはUSB端子を備えているので、フリーWi-Fiサービス「JR Tokai Bus Free Wi-Fi」を使ってインターネットを楽しむこともできる。
各座席の座席頭上には、エアコンの個別吹き出し口、読書灯とスイッチ、スピーカーなどを設置する。
今や長距離バスの必需品となったUSB端子は、シートサイドに設置される。
最前席からの眺望は抜群。二階建てバスの大きな特長だ。乗車の際は、是非この特等席(1A、1B、1C)に座ってみたい。
一階席のシート。体にフィットする形状が素晴らしく、長距離の移動でもラクラク。乗降がしやすいよう、通路側のアームレストが下方を向くようになっている。
一階には2人掛けシートを5脚置く。欧州製乗用車の様な張りがある中でフィットするクッションや、背中のラインにぴったり沿うシートバックが、抜群の座り心地を提供する。また、一階にはトイレと車いす用スペースを有する。貸切や高速路線で使うバスの多くは、眺望を重視した高床のハイデッカー車のため、車いすの方の乗車が難しいが、スカニア製二階建てバスは、一階の底面がフルフラット構造かつ、左側ホイールベース間にも中扉があり、さらに車体を歩道側に傾ける「ニーリング機能」も有するため、スロープ板の設置のみで容易に車いすの乗降が可能だ。
JR東海バスの「J-InterCity DD」では、中扉からの乗降が基本だ。
素晴らしい直進性とハンドリングで、長距離の運転でも疲労が少ない
今回の取材では、実際にスカニア製二階建てバスのステアリングを握る、JR東海バスのドライバー小林 修実氏に、その感想を伺う機会を得た。小林氏は、同社で25年間勤められているベテランドライバーだ。
──スカニア製二階建てバスに乗務されて感じたことを教えてください。
「まず最新式のバス、ということが大きいですね。従来使用していた国産二階建てバスに比べると設計も新しいので、オートエアコンなどの快適性向上に役立つ装備が充実しています。乗り心地は若干硬いですが、その設定が高速走行にたいへん適しています。直進安定性がとても優れているのも印象的です。」
JR東海バスで「J-InterCity DD」のドライバーを務める小林 修実氏。足回りが締まっていて直進安定性が高いスカニアは、高速道路での走行で疲労が少ない、とスカニア製二階建てバスを高く評価してくださった。
──長距離を運転される際、バスの細かな設定の違いが、疲れ方などに影響を及ぼすことはありますか?
「はい、かなりありますね。スカニアは安定感があり、走行中にハンドルを取られることが少ないです。厚みがあるシートの座り心地も良いです。シートベルトがシートバックから出ていることもスカニアの美点です。その他のバスでは、車体が揺れてシートが上下に動くたびに、シートベルトが首に圧迫感を与えることがあります。また、通常のシートでは、被っている帽子がヘッドレストに当たってしまうのですが、このシートでは背もたれが途中でリクライニングできるため、帽子を被っていても自然なドライビングポジションが取れます。
小林氏が絶賛するドライバーズシート。安全運転のためには、まずドライバーが体を長時間預けるシートの設計が大切だ。スカニア製二階建てバスには、優れたホールド性を誇るドイツのイスリングハウゼン製のシートが標準で備わる。
エンジンはパワーもあり、トルクが太いので乗りやすいです。オートマチックの変速もスムーズで、シフトアップが速いのも好ましいです。オートマチックのバスは出足が悪いのですが、スカニアは発進加速が優れていますね。メーターパネルに燃費計が備わっているので、それを見ながら運転すると燃費の向上も図れると思います。リターダーも効きますし、ブレーキのフィーリングも素直ですね」
スカニア製二階建てバス導入に関わった、JR東海バス株式会社 名古屋支店 助役 松本 裕史氏からも、スカニア製二階建てバスへの高い評価をいただいた。
東京―名古屋間の移動は、ぜひスカニア製二階建てバス「J-InterCity DD」で!
二回に分けてお送りした「二階建てバスとスカニアのはしご車が夢の共演!」。今回、JR東海バスが導入したスカニア製二階建てバス「J-InterCity DD」の細部を見て、このバスに乗ってみたい!と感じた。同社のホームページでは、「J-InterCity DD」が使用される便(「2階席のみ3列クレイドル・シート」「1階席は4列シート」と記されている便)が時刻表に明記されているので、東京から名古屋に向かう、もしくはその逆の移動が必要な際は、ぜひとも乗ってみていただきたい。スカニアのエンジンとシャーシがもたらす、快適なバス旅が楽しめるに違いない。
https://www.jrtbinm.co.jp/mainbusroute/
丁寧にスカニア製二階建てバスの詳細を教えてくださった松本氏と小林氏。ありがとうございました!
PHOTO GALLERY
Text:遠藤 イヅル
Photos:安井 宏充(Weekend.)