三河地方から東海地区全般、そして全国に荷物を運搬する愛知県豊橋市を拠点にする渥美運輸株式会社。一般貨物はもちろん、重量物専門の重量品部では、鉄鋼製品や三菱スペースジェット(旧三菱リージョナルジェット<MRJ>)の胴体・尾翼翼など多くの重量物の輸送も手がける。2016年に1台目の『SCANIA(スカニア)』を導入して以来、3年経った現在7台のスカニアを運用している。なぜスカニアを多く導入するのか、その経緯をお伺いした。
国策事業からスタートし三河地方を代表する会社へ
渥美運輸株式会社の設立は1942年8月(昭和17年)、戦後の国策事業として、渥美海運株式会社、渥美中部運輸株式会社、三河トラック株式会社が企業合同において、渥美運輸株式会社へ合併したのが始まりだ。豊橋埠頭での荷役業務や一般貨物運輸、倉庫業を始め、近隣にあるトピー工業株式会社の鉄鋼製品の輸送などを手がける。建材や鋼材、産業設備機械や鉄道・飛行機といった超重量物の輸送、そして橋梁やビルなど建築物の基礎となる鉄鋼などの重量品を扱うことが多くなったため、1962年に重量品部を立ち上げた。重量物に対応した様々なトレーラー、自走式クレーンのラフタークレーンも多く導入し、重量物の輸送だけでなく、クレーンを使った設置業務なども行っている。
愛知県豊橋市明海地区にある同社車庫には大型の低床トレーラーがずらりと並ぶ。
同社は小中型トラックから大型トラック、トレーラーやリフトまで合計350台を保有し、生花野菜やパレット製品、海上コンテナなどの一般貨物から、地域に根ざした輸送まで幅広い分野の輸送を手がける。平成31年度計画(予定)では15tトラックをはじめ多くの車両の代替え計画もあり、常に新しい車両へ転換しているのも注目すべき点だ。
現在、同社ではR580 V8の6×4が3台、G450の4×2が4台の合計7台のスカニアが活躍中で、さらに現在6×4を2台発注し納車を待っている状況だ。V8のパワーが溢れる6×4は重量物を、軽快な取り回しと高速道路などでの安定性が優れる4×2が、一般貨物の取り扱いを担っている。
重量品部の車両は黄色い塗装が施された、どっしりとした安定感のあるR580はV8エンジンを搭載し、パワフルで超重量物を積んでもなんら支障をきたさずどこへでも行ける。スリーパーベッドの後ろにはオリジナルのボックスを装備し、運搬に必要な道具を収めている。
同社の石川 昌義社長の発想から同社で活躍しているスカニアは、全車エンブレムが鮮やかな赤に塗装されている。それが他社との差別化にもなっており、車両のワンポイントにもなっている。
グリフィンのエンブレムと、オリジナルの鮮やかな赤で塗装されたスカニアエンブレムが誇らしげにフロントに並ぶ。
渥美運輸株式会社の石川 昌義社長。社長の提案により同社のスカニアのエンブレムはオリジナルの鮮やかな赤に塗装されている。
スカニアの頑丈さがコスト削減に繋がる
最初はスカニアの存在を知らなかった
渥美運輸株式会社 営業本部 専務取締役の中村 年宏氏に、スカニアを導入したきっかけ、車両を多く購入している経緯を伺った。
渥美運輸株式会社 営業本部 専務取締役 中村 年宏氏は、車両の導入など営業本部全体を取り仕切る。
「同じ豊橋でスカニアディーラーになっている港自工株式会社とは、兄弟会社の関係にあります。実は港自工でスカニアを取扱い始めるまで、スカニアの存在を知りませんでした。港自工の石川社長の勧めもあり、1台購入することになったのですが、スカニアは国内の他銘に比べれば値段が高いこともあり、導入には少し懐疑的な気持ちもありました。」と言う。
スカニアの頑丈さと安全に対する意識が分かり印象が一転
「運送業を行なっている中で、絶対に事故は起こしてはいけないことです。しかし、弊社のドライバーが事故を起こしてしまったことがありました。その時相手の4t車は大破しドライバーにも怪我を負わせてしまいました。当社のスカニアはもちろん損傷はありましたが小破で済み、当たりどころが良かったこともあるのかもしれませんが、ドライバーも怪我をすることはありませんでした。そこで改めて感じたことは、スカニアの車両自体が頑丈に作られており、キャブの作りというのがドライバーの命を守ることに繋がるということです。またこれは結果のお話ですが、スカニアはモジュラー設計のおかげでキャブの整備がしやすい作りをしており、修理費もそれほど掛からず修理できました。」
万が一事故が起きてしまったときに、キャブが乗員の命を守る頑丈な作りになっているのは非常に重要なこと。スカニアは世界で最も厳しいスウェーデンの規格に適合した高剛性キャブを採用しているのが図らずも分かる結果となった。修理期間が長いとその期間車両が稼働できず、運送業の会社にとっては大きな痛手となる。その点スカニアでは迅速なパーツ供給体制が敷かれており、修理期間も短期間で済ませることができたというのだ。
スカニアは最低限のメンテナンスで走らせることができる、と語る中村専務。それは運行管理から考えれば非常に重要なこと。
スカニアがコストを圧縮できる理由
「スカニアは国産他銘に比べれば導入コストは確かに掛かります。しかし、スカニアのメンテナンスを行うことで、メンテナンス以外のパーツ交換費用がほとんど掛からないので、長期的に考えれば運用コストを圧縮することができています。」と中村専務は語る。一般的に運送業を行なっていると、年間走行距離は10万kmを超えるのは当たり前、長距離輸送を行う場合30〜40万kmの走行距離でもそれほど特別ではないと考えられている。その間に掛かる車両のメンテナンス費用と、サービスパーツの交換費用はどのくらいになるのか、相当な費用になることは想像に難しくない。
以前、中村専務はスウェーデンのスカニア本社を視察訪問をした。その際に、スカニア社の子会社でスウェーデンとオランダ間に輸送を担う「Scania Transport Laboratory」という会社の、メンテナンスシートを見せてもらったことがあると言う。そこで所有する車両は年間40万kmの走行を行い、2年半で100万kmを超えるそうだが、交換したサービスパーツは10数点しかなかったそうだ。
現在、渥美運輸で保有している車両も最長で4年弱経過しているが、これといって大きな修理のコストを掛けないで済んでいる。そこが他銘よりも導入で高くても、長期で考えるとコストを圧縮できる理由ということだ。
スカニアは憧れの存在でありドライバーの意識改革に
渥美運輸では車両とドライバーは固定制を取っており、スカニアに乗れるのは渥美運輸の中でもエース級のドライバーである。乗車経験だけではなく、人柄などを重視した評価で選ばれる。
全国をスカニアで走っていると、ドライバーはあちこちで声を掛けられると言う。これまであまり気にかけなかったドライバーでも、他の人に見られることで、車両はいつも綺麗にするようになるという。このような意識の変化により、ドライバー自身が会社の顔となり営業活動を行なっていると気がつき、身なりや運転への意識改革にもなっている。
中村専務も「スカニアを導入することは、人材確保にも役立っています。優秀な人材が集まることは会社の資産となります。離職率も下がっており、車両の入れ替えの際にはスカニアを希望するドライバーが増え、スカニアにしてくれとリクエストがくるほどの人気です。また、スカニアに乗りたいという理由から渥美運輸へ転職してくるドライバーもいます。」と昨今の運送業の人材確保の難しさのなかで一役かっているそうだ。
スカニアに乗ることは会社から認められたドライバーの証
渥美運輸株式会社 重量品部に所属する星野 和寿さんにスカニアに乗ることについて伺った。
一般貨物用はコーポレートカラーのブルーとクリームの塗り分けになる。渥美運輸株式会社 重量品部でスカニアに乗車する星野 和寿さんにインタビュー。
「重量品部に移動し、スカニアに乗車するようになり3年経ちます。スカニアに乗るということは、会社に認められたドライバーだと思っているのでまず嬉しいですし、モチベーションも上がります。スカニアに乗って全国を移動していると、他社のドライバーにも良く声を掛けられます。それだけ他社のドライバーもスカニアが気になっているようです。
スカニアの良いところは高速での運転が楽で、12段AMTのオプティクルーズを右手の指だけで操作できるところですね。また、仕事を終えて汗をかいたあとでも車内が広いため、立ったまま着替えができます。
シートも座り心地がいいのですが、私は一段高くなったスリーパーベッドに腰を掛けて、足を伸ばして休憩するのもリラックスできるので気にいっています。休憩がしっかりとれるおかげで快適な運転ができますし、リラックスすることは長距離での気分転換にも最適です。また乗り降りの際にステアリングを起こすのですが、その際もエアーで作動します。一見地味に思えますが、1日に何度も行う操作なので役立つ機能です。」
坂道の上り降りでの速度変化が少ないこと、ミラーも慣れるとかなり見やすいと言う。スカニア仲間が増えると情報交換などもできるので、自社はもちろん他社にもスカニアの導入を勧めるほどスカニアを気にっていると語ってくれた。
12段AMTのオプティクルーズは指先だけで操作できるのは非常に運転が楽だという。
車内ではスリーパーベッドに腰掛け、運転姿勢とは違う状態で身体もリラックスできる。
乗降時にステアリングをエアーの力で垂直にできるのは、1日に何度も繰り返す作業ではわずかなことだが重要なこと。
スカニアディーラーの港自工が近隣にあるので、メンテナンスや何か分からないことがあってもすぐに問い合わせや、相談に乗ってもらえるメリットは大きいが、これまで通常のメンテナンス以外で入庫したことはほとんどないという。ダウンタイムが短いと、貨物の種類や運行計画における車両の手配、メンテナンススケジュールを計画的に組めるメリットが生まれる。そしてスカニアに乗りたいと言う優秀な人材が集まれば、ドライバー、そして会社全体の意識改革にも繋がる。これからますますスカニアの導入が増えることを期待したい。
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Text:雪岡 直樹
Photos:濱上 英翔