オランダから日本までの陸路、約12,000kmという途方もない距離をスカニアの新トラックで走破するというとんでもない企画に挑戦したスカニアのユーザー、株式会社トランスウェブ。走りきったドライバーにしかわからないその道程での出来事や感想についてお話を伺いました。
オランダで引き取ったスカニアの新モデル、日本までの回送は「ユーラシア大陸横断」で!
以前GRIFF IN MAGAZINEでご紹介した、千葉・富里に居を構える『SCANIA(スカニア)』のユーザー 株式会社トランスウェブ。「発想力と情熱でお客様に感動を運ぶ」をテーマに掲げ、車両のチャーター輸送、海外製高級車の新車輸送、レーシングマシンの輸送、コンサートや演劇等で使用する音響機材・舞台装置などの輸送、海外製高級車のPDI(Pre Delivery Inspection)、そして輸送車両開発まで行っている。
千葉・富里に居を構える株式会社トランスウェブ 東京本社。
同社は「輸送の品質向上」をテーマに掲げ、輸送車両に徹して2018年10月現在40台以上のスカニアトラクターを所有する日本有数のスカニアユーザーである。“スカニアをチョイスしていること”が輸送品質向上の一助となるだけでなく、“スカニアのトラックで輸送するということ”も輸送される対象のイメージを向上させると考えており、目に見える高い品質の車両だけでなく、サービス、ドライバーといった「目に見えない高い品質」も追求する。依頼した品物が思った以上の高い品質で運ばれてきたら、きっと多くの人が感激を覚えるに違いない。そう、輸送は「感動」も運ぶことができるのだ。
そしてトランスウェブでもうひとつ注目したいのは、ドライバーをはじめ社員をとても大切にしていることだ。キャブが広く乗り心地に優れ、長距離でも疲労が少ないスカニアの採用はその気持ちの表れ。そのため毎年数名のドライバーをスカニアの本拠地スウェーデンまで連れて行き、スカニアに乗ってオランダなどに向けて走る「本場での運転」を体験させている。これは欧州のトラックドライバーの社会的地位がとても高いことを感じてもらい、ドライバーという仕事に誇りを持つ……ということへ繋げている。
このように枠にとらわれない発想を常に持ち、それを実行する情熱と行動力を持つトランスウェブが、なんと「オランダで引き取った新車を、そのまま自走で日本まで運ぶ」という前例のない大プロジェクトを発案し、見事達成したという一報をいただいた。そこで私たちGRIFF IN MAGAZINE編集チームは「ユーラシア大陸横断報告会」が開かれるトランスウェブ本社にお伺いした。
運送業の改革を推し進めるための“挑戦”
株式会社トランスウェブ 代表取締役社長の前沢 武氏は、今回のユーラシア大陸横断について概要を丁寧に教えてくださった。
今回の「前例のない」挑戦を発案し、自らステアリングも握った株式会社トランスウェブ 代表取締役社長の前沢 武氏。常に新しいことにチャレンジする姿勢に、大いに感銘を受けた。
「今、トラックドライバーはなかなか集まらないのです。毎月かなりの求人広告費をかけて募集しているのだけど、『この費用で何かしら話題を作って、ドライバーを募集した方が面白いのではないか』と考えたのです。『どうぞ会社に来てください』ではなく、自らが“入りたい”と思えるようなことがしたい。それがユーラシア大陸横断をしてみようと思ったきっかけです。
今回のプロジェクトのルートを描いたラッピングを施したスカニアトラック。道中このトラックを見た人は度肝をぬかれたことだろう。
「私たちの業界はドライバー不足、厳しい各種規制、燃料代の高騰、環境改善対策で車両本体価格もアップするなど、そのバッドスパイラルからの出口が見えないのですが、だからこそ夢のある話題を提供したいという想いもありました。
それと、このような大胆な挑戦をするとき、『事故があったらどうする?』、『怪我したらどうする?』などネガティブな考えから入ってしまいがちですが、私がすべて責任を負うから一歩踏み込んだことをしてみよう、と。私たちはチャレンジをする会社なのだ、とアピールしたかったんです」
オランダ、ドイツ、ポーランド、リトアニア、ラトビア、ロシア、そして日本。計7ヶ国を渡る壮大な計画がこの国旗の数々からも伝わってくるよう。
── ヨーロッパに直接トラックを引き取りに行き、自走で日本まで回送するということは前例がないことかと思います。
「ユーラシア大陸をスカニアのトラックで横断しようなんて、普通は思いませんよね(笑)。当社で注文したこの2台はスカニア新モデルの初期ロットだったので、それを走らせればスカニアジャパンさんにも良い宣伝になりますし、データも取れる。あとスカニアは世界中にディーラーがあるので、だからこそ可能なこともあります」
ユーラシア陸横断に参加した、前沢氏を含めた創業初期メンバー。この挑戦は「長年、苦楽を共にしてきた仲間たちと成し遂げたいという想いから」と同氏は語る。
「スカニアは、世界でより多くの情報が共有できているメーカーです。いわば“世界スペックのトラック”なんですよね。ドライバーに対しても『島国である日本では困難な距離を一気に走っても、スカニアなら疲れない』ということもアピールできます」
そして数千kmを走ってみて燃費が約4.5km/hととても良かったこと、スカニアのキャブの広さが疲労軽減に大きく寄与することも教えてくださった。
ユーラシア大陸を横断するために用意されたドイツの仮ナンバープレートは、日本に上陸後もつけられたまま。取材日まであえて洗車しておらず、12,000kmを走り抜いたリアルが伝わってくるよう。
約12,000kmを4チーム交代、20日かけて走破
ユーラシア大陸横断のスタート地点は、オランダ中央部に位置する都市ベーストにあるファンエック社。ここからドイツ、ポーランド、リトアニア、ラトビア、ロシアを通り、ウラジオストクから鳥取県へフェリーで渡り、東京本社まで自走で回送した。総走行距離は日本を含めると約13,000km、ベースト〜ウラジオストクは約12,000kmだ。1チームあたり2〜3人のドライバーを配置し、A〜Dの4チームに分けてほぼ一ヶ月かけて走り抜いた。
途中、ドイツ北部の都市ハノーファーで「IAA」(国際商用車ショー)にて展示とユーラシア大陸横断出発式を行い、ロシアの都市リャザンではスカニアロシアの正規ディーラーで開催されたリニューアルイベントに参加。同じくロシア中央部の都市ノヴォシビルスクでは日本文化の交流イベントに展示されるなど、実質的な移動日は約20日。そのため、12,000kmを走り抜くためには単純計算で1日600kmという計算になる。中には800km、900kmを移動したこともあった。
ファンエック社がスタートになったのは、ここでトランスウェブ向けのトレーラーが製造され、すでに同社が発注して持ち込み済みのスカニア新モデルと連結したためだ。このトレーラーはそのまま日本でも使用できるよう、全幅2.5m、全高3.8mの日本仕様で製造されている特注品である。
人々のあたたかさと優しさ、ふれあい、熱い想いへの理解に感動
各チームの走った区間は、Aチームはベースト〜モスクワ(ロシア)、Bチームはモスクワ〜イルクーツク、Cチームはイルクーツク~ウラジオストク、しんがりを務めるDチームはウラジオストクからフェリーにて韓国を経由し鳥取港に上陸、そこから千葉・富里のトランスウェブ本社までを担当した。参加するイベントなどある程度の目的地と予定通過日は決められていたが、道中の宿はその日に辿り着いた終着点で決めることが多く、車中泊も何回かあったという。
今回のプロジェクトには、スカニアロシアも協力している。ロシア・リャザンで開催されていたスカニアディーラーのリニューアル記念イベントに特別ゲストして参加。途中ノヴォシビルスクで日本文化交流イベントがあり、ここでも熱い歓迎を受けた。(写真提供:トランスウェブ)
イルクーツクのスカニアディーラーでひとときの休息を取る2台のスカニアトラック。1日あたりの走行距離は900km以上に及ぶこともあった。ロシア国内は高速道路がなく一般道ばかりだがスカニア新モデルは極めて快適で、疲れは最小限だったという。(写真提供:トランスウェブ)
言葉の壁は、スマートフォンの翻訳アプリなどで克服。しかし見知らぬ土地で困ることも多く、そんなときにも多くの人が手を差し伸べてくれた。勝手がまったくわからないロシアへの入国では、現地のドライバーがいろいろ教えてくれた。困っている人を助ける優しさは万国共通なのだ。
滞在した街や宿などでも、日本に向けて走破するというプロジェクトに興味を示し、大陸横断への熱い思いを理解してくれたことにも感激したという。中には沿道で写真を撮影に来てくれる人も!トレーラーに書かれた応援や無事を祈るメッセージに、出会った人たちのあたたかさが溢れているように感じた。異文化を知り、困った時は助け合い、行程を成し遂げてきたユーラシア大陸横断の参加ドライバーたちは、なんと素晴らしく得難い経験をしたのだろう。
目に入る街の景色が日本にいないことを実感させる。お、目の前の交差点をスカニアが横切る!ポーランドにて。(写真提供:トランスウェブ)
1日900km以上の移動もこなしてロシア国内約10,000kmを3週間かけて踏破し、オランダを出発後25日目にはロシア東端の街ウラジオストクに到着。ここから週に1便しかないという鳥取行き定期船に車両を載せ、2泊3日の長い船旅に。
今回踏破した各国(左からロシア、ポーランド、ドイツ、オランダ)のペナントが運転席に飾られていた。これにリトアニアとラトビア、韓国(フェリー)、そして日本が加わって計8ヶ国となる。
そして10月19日、日本にユーラシア大陸を横断したスカニア2台がついに上陸を果たした。もちろん鳥取から本社までも自走で、その距離は900kmにも及んだ。大陸横断の話を聞いていたら、出てくる単位が1日800km、総走行距離12,000kmなど大規模な数字ばかりなので、鳥取から千葉が近いとさえ思った。そのくらい、大きな大きなグランドツーリングだったのだ。
オランダで発刊されている著名なトラック専門誌にも、トランスウェブの挑戦が紹介された。ユーラシア大陸を横断して自走で納車するという斬新なストーリーは、各地でも大いに話題になった。
もう少し詳しい大陸横断の様子は、記事末のギャラリーコーナーに写真を多数掲載しているので、ぜひご覧いただきたい。
スカニア新モデルの快適性や耐久性を発見
もう一人、実際にユーラシア大陸横断でステアリングを握った株式会社トランスウェブ 車両管理課 係長の大日野 史明氏にもお話をお伺いした。ロシアのリャザンからイルクーツクまでの約5,500km(!)を担当した大日野氏は、長距離を一気に走ってスカニア新モデルの良さを発見したという。道中で起きたいろいろなお話も合わせてお伺いできた。
リャザンからイルクーツクまでの回送を担当した株式会社トランスウェブ 車両管理課 係長の大日野 史明氏。スカニアでユーラシア大陸を走ったご経験をお聞きした。ロシアの人たちのあたたかい人柄に感銘を受けたとのこと。
「道路はすべて一般道でした。道路状態は良かったです。それはラクでした。以前のスカニアと比べても音が静かですね。シートも乗り心地も良く、ハンドルも軽くて運転しやすかったです。視界も広くなり、遠くまで見通せるようになったのも大きなポイントですね。燃費もとても良いので驚きました。トラブルもありませんでした。1日最低でも850km乗らなければ、しかも下道、という状況では、疲れないクルマは大事ですね。それとロシアでスカニアをたくさん見たので、世界のトラックに乗っているという嬉しい気持ちがありました」
2台のトレーラーのうち、1台にはユーラシア大陸横断のルートと通過する国の国旗を描いた幕を掲げた。ドライバーが指を指しているあたりがイルクーツク(ロシア)で、日本はまだはるか遠い。(写真提供:トランスウェブ)
(写真提供:トランスウェブ)
ロシアではまだスカニア新モデルの数が少ないことから、ロシアのドライバーはとても注目しており、休憩していると話しかけられることも多かったそうだ。「警察にも街ごとで頻繁に停止させられた」とも。理由は単なる興味本位や荷物チェック。走っているうちに「今日は何回止められるかな」と、笑って受け止められるようになったという。
「ロシアは広大な敷地なので、クルマが壊れたら大変なのです。私は整備を担当しているので、仕事でもクルマが壊れてドライバーが困らないようにしたい、と思いました」
「一歩前へ進める勇気」を与えてくれるユーラシア大陸横断
オランダ製の完全欧州タイプのトレーラーは、同じく欧州生まれのスカニアによく似合う。トランスウェブでは今後、このトレーラーも日常の運送業務に使用する。連結全長は16.5m、幅2.5m、高さ3.8m、最大積載量は27t。
ユーラシア大陸横断──その企画名をお聞きしただけで、規模の大きさやさまざまな出来事に胸が躍った。誰でも大きなチャレンジを思いつくことはできる。でも、実際に達成する気持ちは“大人”になると忘れがちになるものだ。しかも前例のないことは、なおさら躊躇してしまう。
とはいえ、何もしなかったら、何も始まらない。大事なのは、一歩前へ進める勇気なのだ。
同社のHPでのユーラシア大陸横断報告では、その最後に「少しでも夢や希望を与えることができたのであれば、それが本当の成功と確信しております」という言葉で締めくくられている。筆者もトランスウェブのユーラシア大陸横断からその勇気を与えてもらえたように思う。そして皆さんの心の奥にある“夢やチャレンジへの勇気の種火”が、トランスウェブの挑戦を知ったことで少しでも大きくなったのなら、それをお伝えする筆者には望外の幸せである。
「この挑戦を今回限りで終わらせることはない」という前沢氏。今後もスカニアを活用したトランスウェブの大胆な発想力とアクションに注目したい。
長い道中で出会った多くの人々がトレーラーに貼られたキャンバスに記した寄せ書き。その多くは前途の安全を祈るあたたかな言葉だ。
PHOTO GALLERY
Text:遠藤 イヅル
Photos:Masato Yokoyama/株式会社トランスウェブ