重量物輸送や橋梁点検といった特殊業務にスカニアの車両を多数用いている和歌山の河西運輸株式会社。大型クルーザー輸送や橋梁点検といった実際の業務模様とともに、同社がスカニアに見出す利点と特徴についてお話を伺いました。
輸送を軸に4事業を展開する河西運輸株式会社
和歌山県和歌山市を拠点に、輸送に関わる4つの事業を展開する河西運輸株式会社(以下 河西運輸)。1953年の設立以来、大阪、和歌山、奈良、京都、兵庫県など関西エリアを中心に、安全を最優先にした輸送によって地域とともに発展を続けている。4つの事業の内容は50年以上の実績を有する新聞輸送部門、新日鉄住金和歌山工場内で鋼管の構内輸送を担当する鉄鋼製品輸送部門、タンクローリーなどを用いてガソリン、軽油、灯油をガソリンスタンドや工場に運ぶ油脂輸送部門、そして大型のクレーンを保有し重量物の輸送から据え付けまでを行う部門(重量機工本部)である。重量機工本部は社員約350名のうち約80名が在籍する部署で、各種クレーンリース業のほか、クレーンを持っていることを生かして発電所建設工事やメンテナンス、橋梁の架設工事も行う。風力発電所に関しては、ブレードや発電機などの保管、輸送、クレーンによる建設まで一貫して担当できる体制を持っている。
和歌山県和歌山市で1953年に設立されて以来、輸送を柱とした4つの事業を展開する河西運輸株式会社。こちらは重量機工本部 機械センターの事務所。
クレーンや各種重量物輸送にスカニアが大活躍
河西運輸の重量機工本部は大小さまざまなクレーンを保有する。大きなオールテレーンクレーンになると、車両自体が大きいだけでなく、クレーンの伸びる部分(ブームという)が巨大な別体部品になっているために、それ自体を個別に輸送しないとならない。また、クローラー(無限軌道)を持つ巨大なクローラークレーンではブームは鋼管組みの組み立て式となり、クローラーやブームも巨大になるのでクレーンを工事現場に運ぶ際は別に輸送用車両を用意する必要がある。クレーンを持つだけでなく、クレーン自体と付帯する部品輸送も手がけることから、数多くの重量物輸送用トレーラーとそれを牽引するためのトラクターも持っており、『SCANIA(スカニア)』もそのなかに含まれる。また一般的な各種重量物輸送も行っている。
それではここからは同社が運用するスカニアを詳細に見てみよう。河西運輸のスカニアで最新の投入となるのが、「R580」トラクターだ。同社のクレーン・輸送用車両すべてがまとう鮮やかなオレンジがよく似合う。取材時は低床トレーラーに200t級のクローラークレーン本体を積んでいた。本体だけでも重量は約37tあるが、クローラーも約20tに達する。また、ブームやカウンターウェイトなどもさらに別に運ぶ必要がある。
巨大なクレーンの部品が置かれたヤードに佇むスカニアR580トラクター。数百tクラスを持ち上げることができる巨大な自走式クレーン(クローラークレーン)の分割されたブーム(アーム)やクローラー(無限軌道)が所狭しと並べられているが、どれもとにかく大きい。
トレーラーに積まれているのは、200tを持ち上げることができるコベルコ製クローラークレーンの“本体”。これにクローラー(無限軌道)、ブーム、カウンターウェイトなどがセットされてクレーンとして使用できる状態になる。
2010年に導入されたG470 6×6トラクターは、全輪駆動による高い粘着力を持つ。河西運輸では一番長く使われているスカニアの車両だ。取材日はオランダのノーテブーム製8軸トレーラーを牽き、海南市のマリーナで57フィート(約17m)のプレジャーボートの積み込みを行っていた。
マリーナで積荷を待つスカニア「G470 6×6」トラクター。6輪駆動モデルのため車高が高くタイヤが大きいのが特徴だが、河西運輸では外径の小さなタイヤに履き替えている。スカニアジャパン扱いのスカニアとして日本に上陸した第一号車で、2010年に同社にやってきた。年式的に現行型Gシリーズとは各部の意匠が少々異なる。
G470トラクターが牽引するのはオランダのNOOTEBOOM(ノーテブーム)製のトレーラー。車輪がトラクターの操作と同期してステアしていることがわかる。これによって最小回転半径を小さくできる。リモコンでもステアを指示可能。最大積載量は71t。
重さにして14〜15tほどある57フィートのボートを載せる迫力あるシーン。トレーラーは8軸あるが空荷の際は3軸がトレーラーごと上昇。輸送時は逆にご覧のようにすべて着地する。積まれるボートは漁船とクルーザー両方の特徴を併せ持つ、通称“ギョルーザー”。
続いてはG490トラクター。Gシリーズキャブに490psの最高出力と2550Nmという豊富なトルクを誇る直6エンジンを積むモデルだ。この強力なパワーと豊富なトルクは、重量物輸送に大いに役立つ。
この日は東邦車両製3軸トレーラーに日本車輌製の大型自走式キャリア(構内運搬用アンダーキャブトラック)が積まれていた。この車両自体も30tを超える重さがある。しかし、G490トラクターは積荷を含むと46tを超えるトレーラーとなる。
トレーラーとトラック、どちらも河西運輸のオリジナル車両である。既存の車両設計を流用しているのだ。例えばトレーラーの場合、既存車両では3mの幅に対して河西運輸スペシャルではエクステンションによって3.2mまで広げることができるので、積載可能品の幅が増える。このようにちょっとした使い勝手の向上が図られていることが特徴だ。
こちらはスカニア「G490」トラクター。トレーラーに載っているのは、構内運搬用アンダーキャブトラックで最大積載量はなんと100t。ナンバーも付いており、公道走行時は80tまで運べる。
G490は13ℓ直6エンジン「DC13 125」を搭載。最高出力490ps(360kW)/1900rpm、最大トルク2550Nmを1000〜1300回転で発生する。キャブ後部の美しく設えられたボックスは河西運輸オリジナル。同社ではスカニアのステアリングを握るドライバーを選ぶに当たり、操縦技術と経験値の高い人が優先されるという。
新規事業の橋梁点検業務でもスカニアを使用
河西運輸の重量機工本部では近年新たな事業を開始した。それが、橋梁点検関連業務である。最近ニュースなどでも目にすることが多くなった、トンネルや橋梁といった道路インフラの老朽化。そのため国土交通省では、全国で約70万箇所とも言われる橋梁の点検を順次進めている。
橋梁点検車は、橋上に置いた車両からブームについたバケットなどを橋梁の下に伸ばして点検を行うことができ、また点検工程の短縮や簡略化が図れるため、各自治体や調査会社、重機を所有する事業者などで導入が進んでいる。ドイツのMOOG(モグ)社など海外製の国内採用も多く、河西運輸でもスカニア+MOOG製の橋梁点検車を複数種類所有し、アウトリガーの張り出しが不要なことブームの差し込み・伸ばせる量が国内最大級とされる。MOOG製橋梁点検車が有する優れた性能を活かした点検事業の展開を行っているのだ。
機能は優れているが重たくなる傾向が強い橋梁点検車には、日本でもスカニアが採用されることが多い。それは重い海外製機械を載せてもエンジンにパワーがあるため、現場までの走行が苦にならないこと、リターダーも強力なのでブレーキを必要以上に磨耗しないこと、シャーシが頑丈なこと、重量がある機械に耐える4軸や5軸などの特殊なシャーシを柔軟に用意できることなどの理由があげられる。MOOGのような海外製機械は元来彼らの国ではスカニアをはじめとした海外製のトラックに架装されるので、そもそもの相性が良いことは言うまでもないだろう。
河西運輸が新たに手がける橋梁点検事業で使用される、スカニアPシリーズキャブ・スカニア製シャーシにMOOG(モグ)製のMBL-1750を載せた橋梁点検車。国内ではまず見られない5軸トラック(形式的には8×4)で、スカニアはスウェーデン・MOOGはドイツという純欧州製の組み合わせということもあり、置いてあるだけで風景を異国に変える力がある。エンジンは450psを発生する13ℓ直6の「DC13 124」。
トラックによる橋梁点検?と聞いてもピンとこないかもしれないが、ご覧のように橋梁の上にトラックを停め、そこから人が乗れるバケットをブームの展開によってチェックしたい箇所に移動させて橋梁の点検を容易にしている。MBL−1750は橋梁の下への差し込み長さ約17m、下に伸ばした際の最大深さ約21m、上に伸ばしても21mのリーチがあり、国内の橋梁点検車としては最大級。さまざまな橋梁の点検に広範に対応する。
橋梁の下にブームを差し込んでいる様子。左端に点検スタッフとオペレーターが乗るバケットが見える。17mという差し込み量は思った以上に長く、実際目の当たりにすると「よく折れないものだ」と驚かされる。
バケットからの眺め。確かにこれなら橋梁下部の点検も容易だ。
「ちょっとした違い」が付加価値となりヒットを生む
河西運輸がスカニアを多数擁する理由を、同社重量機工本部 機械センター センター長 山崎 隆司氏に伺った。
「私たちは今4つの事業部を持っていますが、すべて“輸送業”という太い幹から外れていません。いずれの事業も太い幹に枝をつけていくという方針で拡大してきました。クレーンとそれを運ぶ部門も枝のひとつです。そしてクレーンの枝自体が太くなってきたので、今度はクレーンを使う工事部を作りました。発電所、橋梁や風車などを、自社のクレーンを活用して作るのです。必然的にクレーンの輸送も必要になります」
「スカニア導入は2010年でした。その前は他の海外メーカーや国産メーカーのトラクターを使っていたのですが、クレーン車が大型化し始めて、海外製の規格で造られた重いクレーンを第5軸荷重の関係で国産メーカーのトラクターでは牽けなくなってきました。またその頃、当社が得意としている発電所への資材運搬に関しても、発電所の耐震基準が上がったことで部材が大きく重くなりました。そのときスカニアは柔軟に対応してくれたんです」
「私たちが希望した第5輪荷重の車両も入れてくれるとのことで、その一声は大きかったですね。導入した1号車(G470)について、最初3年間は様子を見ました。その結果、他の海外メーカーのトラクターよりもスカニアの方が安心して乗れる、ということになり、スカニアを次第に入れるようになったのです」
河西運輸株式会社 重量機工本部 機械センター センター長 山崎 隆司氏は、同社の沿革から経営の方針、そしてこれからの夢を語ってくださった。
河西運輸では重量機工本部を設立してクレーンが増えていくと、それを運ぶためのトレーラーの台数も増えていった。しかし、クルマをはじめとして乗り物が好きだった同社専務取締役の野田 隆史氏が「ウチはちょっと変わった車両を入れよう」と考えるようになったという。そこで各トレーラーメーカーなどに「こういうのはできますか」と、同社が思い描く「こんな車両があったらいいな」というイメージを伝え、実際にカタチにしていった。
今回の取材でも登場した3軸トレーラーや構内運搬用アンダーキャブトラックもその経緯で造られた「河西運輸オリジナル」だという。既存車両の設計を生かしつつ河西運輸独自のアイデアを盛り込む方法を採り、例えば前者の場合、設計幅3mに対して3.2mまで拡張できるようにしたことで、積載する対象を増やすことができるようになった。このように「ちょっと変える」「ちょっとした違い」を持たせることが付加価値となり、クライアントが河西運輸を選択する理由になっているのだという。
「例えば、同業者が誰も持ってない小回りがきくトレーラーを用意して、A社は入れないけどウチなら入っていける、ということをセールスしていったのです。付加価値をつけたことで、その車両を使用した仕事はヒットしました」
「スカニアも付加価値のひとつです。国内メーカーのトラクターでは引っ張れない車両をスカニアなら牽けるという性能、運転時の疲労が少ないという楽さ、強靭なデフやシャーシなどの頑丈さが付加価値なのです。あと同じ仕事をするなら道具がカッコいいほうがいい」
河西運輸が発展したキーワードは、輸送に関すること以外はしないという「ブレない方針」と「ちょっと違うことをする」ことなのだと感じた。「ちょっと違うこと=付加価値」を車両などさまざまなことに与えてきた、という考え方は興味深い。スカニアの性能や存在は他の車両と「ちょっと違う」という大いなる付加価値になるのだ。
和歌山市の河西運輸 重量機工本部 機械センターにはさまざまなクレーン車や橋梁点検車が並ぶ。河西運輸では新聞・石油製品・鉄鋼製品輸送、重量物運搬・クレーンの4事業を展開しているが、いずれも輸送業という“幹”から外れていない。
重量物輸送で感じられるスカニアのパワー
続いて、実際にスカニアに乗っているドライバーの六反田 勝美氏にもお話を伺った。以前は同社で国産メーカーのトラクターを取り扱っていた同氏は、
「重量物を運ぶので力があって出足が良く、しかも停まる性能も高いスカニアは運転していて楽です。出だしからギクシャクしないで発進してくれるのはいいですね。輸送のルートによっては14〜15°の坂道も登ることもあり、そのときはAMTを手動変速にしますが、それ以外はほぼ自動にお任せです。あと、国産メーカーのトラクターが牽引する同じような重さの積荷を積んだ車両と同時に発車したら、まずスカニアにはついてこれません。そのくらい出足が違います。あとキャブが広くて圧迫感がない。キャブ内に立てるのもすごいです」
と、スカニアの良さを教えてくださった。
スカニア車両のドライバーを務める六反田 勝美氏。「スカニアはパワーがあり運転が楽です」
スカニアR580トラクターの運転席からの眺め。高い質感と優れたデザインのコクピットを持つ。室内高も十分にあり、快適性も高い。向かいでアウトリガを展開して作業しているのは360t級の巨大なタダノ製オールテレーンクレーン。同車を見下ろせるほど見晴らしが良いのが写真からもわかる。
今後は知識という付加価値を生かしたい
最後に野田氏は、今後のことも話してくださった。
「好調な倉庫業にも力を入れたいです。大きな倉庫を建てて物流一貫をしようかと。これも、先ほどお話しした“幹に対する枝”になります。そしてもしできるならイチから図面を引いて作成してみたいです。例えば『軸の間を少し伸ばせば通行許可が取りやすくなる』など私たちはこの業界を熟知しているので、その知識を生かしてみたい。『ちょっと付け加えること=付加価値』が違いになりますから」
野田氏の語る“付加価値”に含まれるスカニア。導入は「ちょっとの違い」かもしれないが、走らせていくうちに性能の高さ、ドライバーの疲労低減など体感できる「大きな違い」に変わっていく。それが結果的に同社の売り上げアップに大きく貢献するに違いない。新型スカニアの導入も予定されているという河西運輸の、さらなる活躍を期待したい。
河西輸送の鮮やかなオレンジ色に塗られたスカニア。大きなクレーン車にも負けない存在感だ。
PHOTO GALLERY
Text:遠藤 イヅル
Photos:安井 宏充