スウェーデンのトラックメーカー『SCANIA(スカニア)』のエンジンとシャーシを用いたヨーロピアンスタイル二階建てバスがジェイアールバス関東に導入されました。一般参加者向けの試乗会レポートとともに、その乗り心地について関係者とバスドライバーに感想を伺いました。
ジェイアールバス関東が新たに導入したヨーロピアンスタイル二階建てバス
2018年7月14日(土)から「新宿~東京ディズニーリゾート線」にて、スウェーデンのトラックメーカー『SCANIA(スカニア)』製のエンジンとシャーシを搭載した二階建てヨーロピアンバスの運行を開始したジェイアールバス関東。それに伴い、運行開始日である7月14日に「JRバス関東創立30周年記念 新型二階建て車両導入特別試乗ツアー」が開催された。今回はその模様を中心に、導入の経緯やドライバーの感想などを紹介しよう。
「バスタ新宿」と「東京ディズニーシー」を結ぶ路線にスカニアエンジン搭載の二階建てバスが登場
東日本を中心に高速バスや一般路線バスを運行するのが大手バス会社のジェイアールバス関東。そんな同社で導入している二階建てバスは日本製で、ちょうど入れ替え時期を迎えていた。2016年、さまざまなモデルを比較したうえで最有力候補として挙がったのが、このスカニア製エンジンとシャーシを採用したヨーロピアンスタイルのモデルだった。導入第一弾ということから、東京都・新宿駅南口にある高速バスターミナル・バスタ新宿と千葉県浦安市にある東京ディズニーシーを結ぶ超人気路線「新宿~東京ディズニーリゾート」線に配備されることとなった。
今回、この導入の経緯について、ジェイアールバス関東株式会社 安全整備部 中野 喜春氏にお話を伺った。
試乗ツアー前にインタビューに応じていただいたのは、ジェイアールバス関東株式会社 安全整備部の中野 喜春氏。はとバスの協力を得るなどし、約2年を掛けてスカニア製バス導入を主導していただいた。
「一度に多くのお客様を乗せられる二階建てバスの継続は必須でした。しかし、2010年に国内メーカーの二階建てバスは生産をすべて終了し、もはや新車は望めない。そこでスカニア製が候補に挙がったのです」
かつて海外製バスを採用したこともある同社だが、今ではそのほとんどが国産。数年振りとなる海外製となると、やはり「すんなりと決定!」というわけにはいかなかったようだ。過去何年も実績のない輸入車……どうしても不安がつきまとう……そんなときに思わぬ救世主が現れる。それが2年間からスカニア製二階建てバスを導入している「はとバス」。なんと、同社の全面的な協力を得ることができたというのだ。
「はとバスさんから車両をお借りして、試験走行をすることができました。実際に長距離を走らせて、乗り心地やエアコンの性能、エンジンの振動や燃費などをテスト。結果、問題はなく、むしろ非常に優れたバスだという結論に達し、導入が決定したのです」
2018年7月14日から「新宿~東京ディズニーリゾート」線での運行が開始された「ヨーロピアンスタイル 二階建てバス」。快適な乗り心地や充実したユーティリティーはもちろんのこと、「スタイリングにも注目してほしい」と中野さん。お客さんにはぜひ、乗車する前にじっくりと洗練された外観を堪能していただきたい。
12段オートマチックトランスミッションやセーフティーテクノロジーなど、最新の装備は運転手さんにも好評。「プロのドライバーが褒めることはあまりないんですよ」と、中野さんも胸を張る。
こうして採用された新型バスは、スカニア製エンジンとシャーシにボディは「Van Hool(バンホール)」社製という組み合わせで、細かな仕様は日本の法規に合わせたオリジナル。排気量12.742Lの直列6気筒ディーゼルエンジンは、最高出力410PS、最大トルク2150Nmを発揮し、トランスミッションは12段変速オートマチック。欧州の厳しい最新環境基準「ユーロ6」にも適合するクリーンなエンジンだ。それでいて、定員はこれまでの57名から60名(正座席58名+車椅子用1名+乗務員1名)にアップ。「定員を増やしながらも環境に優しいということも、決め手となった大きなポイントです」と中野さん。
また、一度に多くの乗客を乗せられるということは、それだけ乗務員への負担も減るということ。社員の就労環境向上にも、スカニアのバスはおおいに役立っているそうだ。
優雅な気分を満喫できる「ヨーロピアンスタイル 二階建てバス」
あらためて、今回ジェイアールバス関東で運行を開始した「ヨーロピアンスタイル 二階建てバス」を見てみよう。前述のとおり、エンジンとシャーシはスカニア製で、ボディはベルギーのバンホール製二階建て仕様。安全性能として衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱警報装置、横滑り防止装置、車間距離保持機能付きオートクルーズを備える。また、12段変速のオートマチック・トランスミッションはエンジントルクを有効に使える設定となっていて、エンジン騒音を抑えつつ、燃費や乗り心地向上を図れる環境にやさしいものとなっている。
車体後部に収められるエンジンは、排気量12.742Lの直列6気筒クリーンディーゼル。平成28年排出ガス規制はもちろんのこと、欧州の厳しい最新環境基準「ユーロ6」にも適合した環境に優しいエンジンで、最高出力は410PS、最大トルクは2150Nm。トランスミッションは12段変速オートマチックで運転手への負担を大きく減らしている。
さらに車内に目を向けると、ゆとりある座席配置も見逃せないポイントとなっている。
「シートピットは最大855mmで、これまでより50mm広くなっています。ゆとりあるスペースと座り心地の良いシートは、ぜひ体験してほしいですね」
各座席(一部を除く)にはスマートフォンなどを充電できるUSBポート(2.1A)を装備。頭上にはエアコンの吹き出し口があり、壁側足元にはヒーターも装備されており、年中快適な旅が楽しめる。トイレは清潔で、広さも十分。座席数の少ない1階にあるので、人目を気にしなくて良いのも嬉しい。
そして、なんといっても特筆すべきは、2階座席からの眺望だ。最前列シートの目の前にフロントガラスがあり、走行中の迫力は満点! もちろん、後方の座席も大きく取られた窓ガラスによって、東京の街並みを堪能できる。車内は落ち着いたデザインに統一されており、眺めの良さも相まって、じつに優雅な気分を味わえるのだ。
ボディデザインを担当したベルギーのバンホール社が誇るヨーロピアンスタイルのシート。高級感と快適性を合わせ持つデザインが秀逸。広い窓からの眺望も好評だ。
シートピッチは最大で855mm。シートはリクライニング可能で、かなりリラックスして乗ることができる。1日中レジャーを満喫して疲れきった帰りには、その居心地の良さが沁み入るはず。
また、お客様に特にアピールしたいポイントを訊いたところ、中野さんは「スタイリングです」と即答。
「ヨーロピアンスタイルの洗練されたデザインは、これまでにはないもの。せっかく乗るのであれば、やはりカッコいいバスに乗っていただきたいですからね」
各席にUSBポートやエアコン送風口、読書灯などを装備(一部を除く)。各々が快適に自分の時間を過ごすことができる。また、座席下側(壁際)にはヒーターもあり、冬は足元からポカポカと温めてくれるのだ。
トイレは1階、階段のすぐ側に設置されている。1階席の後ろにあるので、2階席からはもちろん、1階席の乗客の目線も気にすることなく使用できる。広さは十分で、白を基調とした清潔感を感じる室内となっている。
「JRバス関東創立30周年記念 新型二階建て車両導入特別試乗ツアー」を開催
ヨーロピアンスタイル 二階建てバスの運行初日となる7月14日(土)、通常ルートとは別に都内を周遊する試乗会が開催された。これは一般応募が可能なツアーで、東京駅八重洲口南にある鍛冶橋駐車場からスタートを切り、宝町ICから首都高・内環状線を回り、レインボーブリッジを渡って中央環状線へ。初台ICを出てバスタ新宿前を通り、さらに都内某所で撮影会。その後、再び鍛冶橋駐車場へ戻ってくるというルートが設けられた。当日、親子連れはもちろんのこと、熱心なバスファンも多く、午前と午後の2回行われたツアーはどちらも満席の大盛況。とくに撮影会では、バス外観だけでなく車内の細かな箇所まで、時間いっぱいを使って参加者の皆さんはシャッターを切ったり、スタッフに質問したりと、とても楽しそうなのが印象的だった。
試乗ツアーでは道中、都内某所にある駐車場で撮影会を開催。参加者たちは思い思いにシャッターを切り、満足そうだった。大迫力の二階建てバスは街行く人の注目も集め、なかには足を停めて見入っている通行人もいたほど。
試乗会後、参加者の方に感想を聞いてみた。
「これだけ楽しめて、参加費2,000円は安いですね。乗り心地がすごく滑らかで快適なのが印象的でした。座席の座り心地も良いので、これなら長距離でも疲れなさそうです」
「音が静かでエンジン音がまったく気にならなかったことに驚きました。むしろエアコンの音が気になるくらい(笑)。それほど静かでした!」
他にも数人にお話を伺ったが、皆さん高評価。なかには「長距離高速バスとして採用されたら、ぜひ乗ってみたい」なんて声も聞かれた。
二階席最前列は大迫力! 普段見慣れない位置から見下ろすレインボーブリッジは、このバスが単なる交通手段ではなく、もはやひとつのアトラクションかと思わせるほど。
ドライバーズ・インプレッション! 気になる感想は?
特別試乗ツアーの運転手を務めたのは、ジェイアールバス関東株式会社 東京支店 輸送課 運転主任の稲毛 達也氏。今回でヨーロピアンスタイル 二階建てバスに乗るのは3回目だという同氏に、率直な感想を伺った。
「首都高を走ったときにオートクルーズを使いましたが、車間距離を保ってくれるのがとても良いですね。また、直進安定性も良くて、高速道路は本当にラクに走れるバスだなと感じました。サスペンションが柔らかくて、ショックの吸収も良い。総じて、高速・長距離では疲れにくそうな印象を受けました」
ただ、これまではマニュアルミッションの国産車両を運転してきただけに、まだ慣れない部分もあるそう。
「これまでは自分の意思で変速できましたが、オートマチックだとそうはいきません。変速タイミングを身につけて、いかに変速ショックを少なくするかは気を使うポイントですね。ミラーの見え方や内輪差もこれまでの車両とは大きく違いますが、これらは慣れの問題ですね(笑)。すぐに慣れて、気を使わなくなると思います」
とくに好印象を抱いたのは「上り坂でもグイグイ登っていけるエンジントルク」とのこと。「高い安全性能も相まって、ストレスなく走ることができる」という感想を語ってくれた。
試乗ツアーで運転手を務めたのはジェイアールバス関東株式会社 東京支店の稲毛 達也氏。丁寧な運転で、安心して試乗を楽しむことができた。
旅や行楽は目的地でだけ楽しめれば良いのではなく、その道中も重要なファクターである。ジェイアールバス関東のヨーロピアンスタイル 二階建てバスなら、その往復路も快適で楽しい気分にさせてくれるに違いない。多くのお客さんの夢や思い出を乗せて、いよいよ走り出した同社の新型バスに期待せずにはいられない。
大迫力かつスタイリッシュな車体は東京の街並みによく似合う。今後の活躍が楽しみだ!
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Text:佐賀山 敏行
Photos:安井 宏充