スカニア製エンジンとフレームを持つ連節バス「YELLOW LINER華連」の運行がいよいよ開始!長さ18m、130名を一度に輸送できる連節バスです。今回は連節バスを2台導入した奈良交通株式会社主催の出発式を取材、そしてドライバーさんにお話をお伺いしました。
奈良交通、スカニアエンジンを搭載した連節バスを2台導入
奈良県奈良市に本社を置き、合計189路線・営業キロ4181kmを誇る近畿エリアの大手バス事業者が奈良交通株式会社である。奈良県一円、および京都府南部に路線バス網を、そして奈良と各都市を高速バスで結ぶ路線を有する同社は、『SCANIA(スカニア)』製エンジンとフレームを持つ連節バス「YELLOW LINER華連(イエローライナーかれん)」の運行を、けいはんな学研都市の精華町地域で2018年3月30日(金)より開始する。
連節バスとは、世界の各国でも運行されている2つ以上の車体で構成されるバスで、一度に多くの乗客を運ぶことができる輸送力の大きさから、日本でも民営・公営の各事業者によって導入が進められ、千葉市、藤沢市、岐阜市など各都市で運行している。
「YELLOW LINER華連」に用いられるのは、「スカニアのエンジンとフレーム」にオーストラリアのバス車体メーカー「ボルグレン(VOLGREN)の車体」を載せた連節バスで、日本の保安基準における最大幅2.5m以下に抑えた日本向け設計で製造されていることが特長だ。同組み合わせは2015年9月に運行を開始した新潟、2016年8月から走らせている福岡についで3件目の採用となる。
スカニアはスウェーデンのトラック・バス、産業用及び船舶用エンジンメーカーで、寒く厳しい北欧の環境が生む耐久性や、信頼性の高さに定評があることはGRIFF IN MAGAZINEでこれまでもお伝えしてきた。日本ではトラックの印象が強いが、バスもスカニアの重要な主力製品である。
「YELLOW LINER華連」はエンジンとシャーシはスカニア(スウェーデン)、車体はボルグレン(オーストラリア)の組み合わせを持つ外国製連節バスである。車体はアルミニウム製で軽量化が図られている。
2つの車体がホロを介して繋がっていることがわかる。見るからに巨大な連節バスの全長は、なんと18m。一般的な大型路線バスが10〜11m台なので、その長さと大きさが想像出来る。先端的な研究開発が行われるけいはんな学研都市に、イノベーティブで先進的なイメージを持つスウェーデンの製品は良く似合う。
巨大なエンジンメンテナンスリッドが目を引くテールエンドには、スカニアのエンブレムとロゴが輝く。全長が18mもあると、従来の感覚で連節バスを追い越すのは危険だ。そのため、車体後部には「全長18m追い越し注意」と、ドライバー喚起の文字が入る。道路法車両制限令で決められている軸重の一般制限値は10tのため、第3軸がそれを超えるこのバスでは軸重の表記が行われている。
けいはんな学研都市に連節バス導入が必要だった理由
けいはんな学研都市とは、30年程前から進行中の国家プロジェクトの都市建設計画である。主に京都府木津川市、精華町、奈良県奈良市、生駒市などにまたがる丘陵地には様々な分野の企業や大学、研究所、住宅等が集積しており、道路やバス路線、都市モビリティの充実・強化が進められている。しかし鉄道をはじめとした公共交通機関の整備不足による自家用車通勤による交通渋滞など、交通アクセスは大きな課題となっている。
中でも町域全てがけいはんな学研都市に含まれ、中心エリアとなる精華町地域へのアクセスは、近鉄学研奈良登美ヶ丘駅もしくはJR祝園(ほうその)駅/近鉄新祝園駅から発着する奈良交通のバスが主なルートだが、増え続ける乗客に対応するために朝のピーク時には1時間あたり10本以上のバスが運行されている。それでもバスはとても混雑し、しかも今後も企業進出と人口増加が見込まれるため、バスの輸送力改善は急務である。
連節される後部車両。エンジンはこちらの最後部に置かれ、後輪を駆動する。奈良交通が今回運行する区間では、後乗り・前降り方式を採用する。降車口は最前部のドア(前扉)のみとなる。
「連節している部分の車内ってどうなっているのかな?」という素朴な疑問を持つと思う(筆者もそうだった)。その正解は、これ。色が違うセンターのサークル部が、2つの車体の角度に合わせて旋回する。はるか遠くに見える後部車両奥の座席から、車体の長さと収容力の大きさがわかる。
そこでこれらの諸課題を解決するため、京都府と精華町は「新公共交通システムの構築」を目指した。その回答として選ばれたのが今回導入された連節バスだった。だが連節バスは、現在国内のトラック・バスメーカーでは新車の製造を行っていない。また、幾つかの都市で採用されている欧州製連節バスは、全幅が2.55mで現地仕様そのまま、ということなどの事情もあり、新潟と福岡ですでに運行の実績を持つスカニア+ボルグレンの「日本サイズの連節バス」が選択されることになった。需要があるのに日本製のトラック・バスに該当する製品がなく、かつ性能や燃費に優れるスカニアが選ばれる事例は多く、連節バスもその一つと言える。
連節バスは通常なら全長だけでも保安基準を超え、原則日本の道路を走行できない。運行するにあたって道路運送車両法に基づく規制基準緩和、道路法に基づく特殊車両通行許可申請、道路交通法に基づく制限外許可申請等などが必要になる。その手続きは決して楽なものではないため、国土交通省も連節バスのニーズ増加に伴い「連節バス導入のガイドライン」を作成してはいるものの、保安基準を超えるいくつもの要件を持つ海外の連節バスを走らせるにはまだまだハードルが高いことは事実だ。走らせるまでの手間も、そのままバスの販売コストに跳ね返ってしまう。
こうした事情の中で、重要な要件である全幅が保安基準に収まっているスカニア+ボルグレンの連節バスは、「ローカライズされた連節バス」として日本向け標準車の側面を持ちつつある。日本導入が進んでいる理由の一つだろう。海外製バスを運行する時のネックとなる部品供給についても、スカニアジャパンという日本法人を持つスカニアがバックアップする体制が整っていることも、導入実現を大きく後押ししている。それもスカニアの強みだ。
スカニアエンジン搭載の連節バスがもたらすこと
このように、連節バスの導入は単なる新車投入とは異なり、インフラや都市計画という大局的な環境整備に近い性格を持つ。「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(環境省公費)」が導入の際に受けられることからも、それが伺える。けいはんな学研都市に奈良交通の連節バスが走るのも、前述のようにけいはんな学研都市が抱えるアクセス問題への答えなのだ。そしてそれ以外にも幾つかの諸課題の解決の一助となる可能性を、連節バスは秘めている。
都市計画としては通常の路線バス比約1.5倍の輸送力を発揮してバスの混雑を緩和、それによって公共交通への転換を促して自家用車での通勤を減らし渋滞を解消、CO2の削減も実現。そして環境に優しい新交通システムを走らせているという環境意識の高さのアピールも可能となる。運行する奈良交通としても、バス運転者の不足問題、定時輸送実現、輸送の効率化、コストの削減などにも対応することができる。
2018年3月16日(金)に奈良交通が主催した「YELLOW LINER華連」出発式には、京都府の副知事や精華町町長、京都府建設交通部、精華町地域温暖化対策地域協議会などの自治体の長・関連部署のスタッフが招待され、そして奈良交通の会長と社長も出席された。「YELLOW LINER華連」が走るまでに自治体の意思や計画があったこと、そして「YELLOW LINER華連」への期待の高さを示すものと言える。
出発式は京都府精華町と木津川市にまたがる「けいはんなオープンイノベーションセンター(KICK)」で開催され、導入までのドキュメント映像、祝辞の発表、「YELLOW LINER 華連」を運転するドライバーへの花束贈呈などが行われた。スピーチには京都府副知事や精華町の町長などが登壇。
テープカットも行われ、出発式を華やかに彩った。奈良交通のキャラクター「シーカくん」(左)、京都府広報監のキャラクター「まゆまろ」(右)も駆け付けた。なお、まゆまろは年齢不詳で推定2000歳とのこと。
出発式では関係者への試乗会が行われたが、皆嬉しそうにカメラやスマホをバスに向け、そして乗車中もずっと楽しそうだった。出発式も近隣の園児を招くなど穏やかな雰囲気で行われ、奈良交通のスタッフをはじめ多くの人がスカニアエンジンを積んだ「YELLOW LINER華連」の運行開始を心待ちにしていたのを感じた。集まった人々の熱意は寒い雨も吹き飛ばすように暖かく、こちらも嬉しい気持ちになった。
出発式に招待された関係者は出発式の後、「YELLOW LINER 華連」が運行されるエリアで同車の乗車を体験した。皆、新しく走り始める連節バスに興味津々。約20分間の試乗を楽しんだ。
なお、「YELLOW LINER 華連」という愛称は、目にも鮮やかな黄色のバスのイメージを表現した「YELLOW LINER」と、「精華町」と「連節バス」から一文字ずつとり、華やかで可憐といったイメージを連想させる「華連(カレン)」を組み合わせたもので、精華町地球温暖化対策地域協議会において決定され、精華町より公表されている。
ノンステップの床は十分低いが、乗降時にはさらにバスがニーリングして乗りやすさをアシストする。バスが傾いているのがわかるだろうか。
ノンステップ+ニーリングの効果は抜群。出入り口の高さはここまで低くなる。スロープの追加によって車いすでの乗降も楽に行える。対応するドアは前部車両の2枚目(中扉)。
思いのほか小回りがきく、最大47度曲がる連節構造
車両ファンとしては気になるスカニア+ボルグレンの連節バスについて少しだけ触れておこう。今回は記事の最後の「ギャラリー」コーナーを含め写真と解説を多めに用意させていただいたので、詳しくはそちらもぜひご覧になってほしい。
ボディサイズは全長17990mm、全幅2490mm、全高3250mm、乗車定員は130名となる。シャーシはスカニア「K360UA6×2/2LB」、車体はボルグレンの「オプティマス(OPTIMUS)」の連節バス仕様である。日本でもバスはシャーシメーカーと車体メーカーの組み合わせが選べるように、オプティマスもエンジン+シャーシは各社から選択できる。スカニア+ボルグレンのチョイスは世界各国でごく一般的であることも、信頼性の高さにつながるファクターだ。
なお、ボルグレンはオーストラリアのバス会社「グレンダ」によって1977年に設立された会社で、アルミによる車体製造に長けていることで知られる。現在はブラジルのバスメーカー、マルコポーロの傘下にあり、アジア圏での納入実績も多い。
大きくステアリングを切った状態。思いの外、連節部が折れ曲がることにびっくり。
注目の連節部の構造は、全長18mもある連節車両なので小回りはきかないのでは……と思ったが、ステアリングをいっぱいに切って最小の回転半径で回ると、47度(!)まで曲がる連節部の設計も相まって意外なほどにコンパクトに曲がっていく。実際には道路はすべて平坦ではないため、連節部は上下角8度、前部車両と後部車両のひねりは3度まで動かすことが可能だ。また、後部車両はただぶら下がっているわけではなく、備えられたダンパーが自然な戻りをアシスト。不自然な挙動や揺れの低減も行っている。
後部車両の後扉以降では、ひな壇状にシートが並ぶ。シートのデザインは日本のバスでは見られないもので、このバスが海外製であることを感じさせてくれる。
後部車両に縦置き搭載されるのは、スカニア製直列5気筒9.3ℓディーゼルエンジン、「DC09」。ターボチャージャーによる過給を得て最高出力360ps(265kW)/1900rpm、最大トルク1700Nm/1350rpmを発生。欧州のEuro6、日本の平成28年規制という厳しい排ガス規制をクリアする。
機能美溢れ、高級感もあるダッシュボード。スカニアエンジン搭載車であることをアピールするステアリングセンターのグリフィンマークが誇らしい。トランスミッションはZF製6速フルオートマチック。サイドブレーキはステアリング右横に設置される。
「YELLOW LINER 華連」は奈良交通のイメージリーダー
「YELLOW LINER 華連」の出発式では、奈良交通に導入された2台が会場に登場し、試乗走行を行った。2号車のステアリングを握ったのは、指導運転者でもある女性ドライバーの中村さん。奈良交通では女性ドライバーが全社で11名いるが、そのうち5名が中村さんの所属する平城営業所に在籍する。「YELLOW LINER 華連」の車庫でもある同営業所では、女性専用の休憩室やシャワールーム、仮眠室など女性が働きやすい設備も整っているという。
「連節バスの運転をできると知らされたときは、ワクワクドキドキしました。これから運行が本格的に始まっていくので、お客様の乗降時間がどれくらいかかるかなど、運行してみないとわからないことに対応し改善していきたいです。YELLOW LINER 華連は注目の的ですから、安全運転に努めます。」
2号車を運転していた、笑顔が素敵な中村さん。「YELLOW LINER 華連」の運転ができるのは奈良交通に在籍する女性ドライバーの中でも中村さんだけ。大きな連節バスをスムーズに運転する姿がカッコいい!
続いて、平城営業所の所長 中垣 浩也氏に、連節バスの受け入れ態勢などをお伺いした。
——ドライバーの方はどのように選抜したのですか?
「お客様に気持ち良くご乗車戴くために、YELLOW LINER 華連の運転者は勤続10年以上、3年間無事故無違反、3年間苦情なしの人材を11人選び、10日間の研修を積み重ねました」
——なるほど!まさにエースドライバーですね。連節バスの運転に、牽引免許は必要なのですか?
「いいえ。車体を切り離すと走行が不可能な連節バスでは、牽引免許は不要なのです。しかし、何人かの運転者は試験場で牽引免許を取得しています。かくいう私も取得しました。私は指導する立場でもありますので、牽引車両の運転指導をする時にどんなことを試験官が指示するのかを知りたいと思いました。重要なことは内輪差に気をつけることと、目視の大切さでした。実は今日この出発式が終わった後、運転者を集めてもう一度指導会を行うんですよ」
「YELLOW LINER 華連」の運用、整備などを行う奈良交通平城(へいじょう)営業所所長 中垣 浩也氏。連節バスの導入経緯や、受け入れ態勢などを教えてくださった。
——やはり運転には目視確認が大事なのですね。ところで御社では連節バスを整備するために、何か受け入れ態勢を整えられたのでしょうか。
「営業所内に点検整備用の建屋を新築しました。18mの車体も収まります。整備の時は3連リフトで持ち上げることも可能です。また、バス停周辺は連節バスを停車させるために、20mほど切り込みました」
なお、奈良交通によると「YELLOW LINER 華連」の運行は基本的に平日の朝夕のみ。運行区間は祝園駅〜ATR(国際電気通信基礎技術研究所)、光台三丁目などを結ぶ急行46・47系統に投入される。停留所の時刻表に「連」の記載があるダイヤが連節バスによる運行とのこと。成果次第によっては運行エリアの拡大、連節バスの追加導入を目指すという。
春の訪れとともにけいはんな学研都市に新しい風が吹いた。それが「YELLOW LINER 華連」だ。昨年神戸港に上陸し、自走で奈良までやってきた海外製の連節バスは、導入の計画から運行開始までに関わった多くの人々の思いを乗せ、いよいよこの美しい街を走り出す。
スカニアエンジンを搭載した「YELLOW LINER 華連」が、奈良交通の新たなイメージリーダーとして今後多くの人に愛され、活躍することを楽しみにしたい。
鮮やかなボディカラーは、視認性に優れる黄色を基調に、鹿がけいはんな学研都市のなだらかな丘陵を駆け上がるイメージを表現している。鹿のマークは、奈良交通のシンボル。同社のバスのほとんどに描かれていることでもおなじみだ。
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Text:遠藤 イヅル
Photos:YosukeKAMIYAMA