パルプ材の生産、製紙用チップ原木や用材の伐採販売など、木材業、林業全般を営んでいる、福島県郡山市の株式会社アメリカ屋を取材しました。昨年11月にスカニアのG410トラックを導入。今回は、林業業界のハイブランドメーカー「HIAB(ヒアブ)」のローダークレーンのオペレーションの模様、北欧ブランドに拘ったきっかけなどをお伺いしました。
「アメリカ屋」が導入したスカニアは日本初の「北欧トライアングル」の一台
様々な業界、業種で使用される道具やアイテム、設備、装備には「定番」や「高いシェアを誇るメーカー」「各業種の関係者なら知らない者はいない、というブランド」が存在する。例えば屋外看板などでは、使用されるカラーフィルムで特に耐候性が優れていると評されるメーカーがあり、食品製造になくてはならない食品機械の中で「肉まんの具を包む機械ならあのメーカーが良い」など、細分化された業種ごとに「優れたブランド」がある。それらの職種に関わらない限り、それぞれの業種に触れる機会はそう多くは無いため、このような「知られざる優れたブランド」は知の探求的にも新鮮に感じられるものだ。
今回GRIFF IN MAGAZINEの取材で訪問した「株式会社アメリカ屋」は福島県郡山市に本社を有し、パルプ材の生産、製紙用チップ原木や用材の伐採販売、工事に伴い発生する木質系産業廃棄物の中間処理、オガ粉の製造など木材業、林業全般を営む企業で、2017年11月に『SCANIA(スカニア)』のG410トラックを導入した。同社では以前より林業では定評があるブランド、「HIAB(ヒアブ)」のローダークレーンを設置した木材運搬用トラックを多数運用している。HIABはスウェーデン発祥の世界有数の陸上荷役運搬機械メーカーで、現在はフィンランドのCargotec(カーゴテック)グループに属する。HIABの創設者エリック・スンディンは油圧とトラックの動力を用いてクレーンに動力を供給する方法を発見し、彼の本業であったスキー製造に必要な重い丸太を運ぶことができる油圧式クレーンを開発。そして1944 年、社名もズバリ“油圧産業”を意味する「Hydrauliska Industri AB」の略であるHIABを設立した。そしてHIABは現在もなお林業用クレーンメーカーとして世界各国から高い評価を受けている。林業を知るチャンスが少ない私たちには、まさにHIABというメーカーは「知られざる優れたブランド」なのだ。
福島県郡山市で林業に特化した事業を展開する株式会社アメリカ屋が運用するスカニア。クレーンはスカニアと同じ北欧のHIAB(ヒアブ)、架装はフィンランドのALUCAR(アルカー)という「北欧トライアングル」。ALUCARの架装を持つトラックは日本では大変珍しい。完全な欧州スタイルのため、日本ではこれまで見ることがほぼなかった仕様である。
もちろん株式会社アメリカ屋のスカニアにもHIABのクレーンが装備されているが、このスカニアのトピックはそれだけではなく、荷台の架装もフィンランドのボディワーカー「ALUCAR(アルカー)」が行っており、エンジン及びシャーシがスカニア(スウェーデン)、荷台架装がALUCAR(フィンランド)、クレーンがHIAB(フィンランド)といういわば「北欧トライアングル」で構成されていること。これは国内4社のトラックメーカーが高いシェアを持ち、海外製トラックでも国内メーカーで架装される日本のトラックでは画期的で、実際ALUCARで架装されたスカニアは日本初だという。荷台の設計やデザインはアメリカ、日本、ヨーロッパなど地域ごとにそれぞれ傾向が異なるため、洗練されたデザインを誇るキャビンのスカニアのみならずデザイン性と機能性を高いレベルで両立するALUCARの荷台、そしてHIABのクレーンを持つ株式会社アメリカ屋のスカニアは、まるで北欧や欧州から運ばれてきたままの姿を見せる。人工物がなく木材の中に置かれたスカニアを見ていたら、本当に今いる場所は日本の福島県なのだろうか、と思ったほどだ。
もし日本のコアな欧州トラックファンが、クレーンのHIABエンブレムとバンパー下のマッドフラップに描かれたALUCARのロゴを見たら目を白黒させるに違いない。しかし彼の地では言うまでもなく当然の組み合わせの一つとなる。
木材業の本場である北欧のスタイルは、木材の中で見事なコントラストを魅せる。働くクルマ、働く機械、働く部品でもデザインがしっかり施され、美しいのだ。
クレーンの操作にVR(仮想現実)ビジョンを採用
そして同社のスカニアには、さらに注目すべきポイントがある。それが、「HiVision」と呼ばれるクレーンオペレーションシステムである。これまでのクレーンは後端に座席を設け操作するなど直接操作を行っていたが、HiVisionではキャビンの中からクレーンを動かしてトラックに木材を積み下ろすことが可能となった。このシステムはいわゆる「VR(バーチャルリアリティ)」技術を用いている。ドライバー(オペレーター)は運転席から助手席に移り3Dゴーグルを頭にセット。ゴーグルにはクレーンの脇に設置されたカメラが撮影する映像が映し出される。ドライバーはその映像を見ながら、まるでクレーンの脇の高い位置に座ったかのような感覚でクレーンを操作する。
新しい時代を感じさせる画期的なオペレーションシステムHiVisionも、株式会社アメリカ屋が日本で初採用した。林業の作業環境は山間部が多く、冬の厳寒期となればクレーンを屋外で操作するのはとても寒いはず。HiVisionなら暖かいキャビン内からのクレーン操作が可能となり、大きく作業性が改善されるのではないだろうか。今後同社のトラックはスカニアの導入が予定されており、同様にHiVisionの採用も拡がっていくに違いない。
アメリカ屋が導入したスカニアに装着されているHIABのクレーンには大きな特徴がある。それがこのカメラだ。何かを監視するため?
実はこのカメラは、トラック後部に設置されたクレーンを操作するためのもの。カメラのレンズが撮る映像は、ドライバー(オペレーター)が着ける3Dゴーグルに映し出されるので、ドライバーはその映像を見ながら助手席に設置されたジョイスティックでクレーンを遠隔操作する。そのため、これまでのクレーン後部に備わっていたオペレーター用座席が存在しない。
ドライバーは助手席に座った状態でクレーンを動かしている。まず荷台内、キャビン方向に向いていたクレーンが持ち上がる。
積まれた木材の山にブームを伸ばし、「グラップル」と呼ばれる爪が木材を掴む。クレーンゲーム機をイメージすると分かりやすい。日本ではクレーンがキャビンと荷台の間に置かれていることが多いが、このトラックではこのように後端に設置される。
採用されているクレーンはHIAB製品で林業用に位置付けられる「LOGLIFT(ログリフト)」シリーズの「118S」。グラップルを用いて数本を一気に掴み上げるため、木材に玉掛け作業(クレーンのフックに荷を掛け外しする作業)をせずに済む。
ドライバーは巧みにクレーンを操作して、木材を荷台に置いていく。なおクレーンの操作資格は、吊りあげ重量5t以下では小型移動式クレーンの技術講習で交付される。
HiVisionによる木材の積み込みを実演してくれた佐藤 晃氏。スカニアのドライバーでもある。着用する大胆でカッコいいデザインのツナギはHIABのもの。海外の写真のような雰囲気だ。佐藤氏もカメラを向けるとバッチリポーズ。決まった!
木材を積んで急坂を上り、下る。過酷な環境でこそ性能を発揮するスカニア
株式会社アメリカ屋 代表取締役 鈴木 金一氏。巧みな話術で所々に笑い話を挟みつつ、屈託ない笑顔で北欧製品への思いを語ってくださった。
日本初づくしの「北欧トライアングル」スカニアの運用を決めた株式会社アメリカ屋 代表取締役 鈴木 金一氏は、現在も1955年型のフォルクスワーゲン・タイプ1(オーバルウインドウ)を所有するクルマ好きだ。欧州製品の考え方、日本の林業と林業機械の歴史を交え、スカニアが林業に向いていると力説してくださった。
1960年に青木屋商店として創業した株式会社アメリカ屋は、創業者で鈴木社長の父、晋作氏が創業した。晋作氏は創業前にアメリカに渡っており、帰国後にバイクで洋服を行商販売していたことが青木屋商店の始まりで、その後炭の生産販売を開始したことが現在の木材業に至る契機とのこと。創業2年後の1962年には早くも商号を「アメリカ屋商店」に変更しているが、「アメリカ屋」になったエピソードは、晋作氏がアメリカ帰りで顔つきも日本人離れしていたことから「アメリカ」というあだ名をつけられていたことによるそうだ。そして鈴木社長はアメリカ屋の代表取締役に就任してから36年が経つ。
鈴木社長によれば、日本の林業の機械化は大きく遅れていたという。日本が動物で木材を運んでいた時、北欧ではすでに油圧機械が稼働していたとのこと。
「炭の生産販売をしていた時から3輪トラックを用いて輸送をしていたのだけど、他の人よりは早かったんじゃないかな。50年以上前からトラックをたくさん使っていて、HIABのクレーンは25年くらい前に初めて採用したのね。日本の林業向けトラック、機械って本場の欧州に比べると遅れていて、北欧、スウェーデンなどでは戦前からすでに油圧の機械が発達していた。ウチのオヤジが林業を始めたころは、まだ馬や牛で材木を出していたのにね、この辺りでは。そこでオヤジは米軍基地から払い下げジープを買ってきて、トレーラーを牽引してそれに木材を載せたのね。積むのは手だったが当時では十分画期的だった。でも向こうでは油圧クレーンや大きなトラック、機械が当たり前だったから、20年以上は遅れていたんだね。しかも25年くらい前までは木を下ろすとき、トラックをバックしてブレーキ踏んで下ろす、なんていう単純で大変な作業をしていた。欧州の機械はすごかった。1960年代にもう油圧、空気圧を備えた産業機械を作っていたのだから。林業機械もそう。チェーンソーも欧州の製品はすごい。それで僕らも欧州の林業機械化、林業の考え方の違いを学ぶことにしたのね。」
そして鈴木社長は現在の国内林業向けトラック事情についても教えてくださった。
「現在の国内メーカーのトラックのシャーシは、材木を積んで坂を上り下りするという林業の使い方にはちょっと厳しい。欧州、北欧のトラックはシャーシからスプリングまで違う。エアブレーキも。クレーンではHIABも油圧ポンプの性能が良い。今回スカニアを初めて入れてみて、材木を積んで山を走っても、林道に入ってもその強さが光った。スカニアはトラックの設計、考え方が林業に向いている、というのは伝えたいね。日本で林業向けトラックの性能を満たすのは今、スカニアしかない。スカニアの性能が発揮出来る業種は、林業のような相当な坂を上り下りする過酷な環境だと思う。耐久性も高いだろうし、足回りもシャーシも丈夫だからね。坂を下る時のリターダーもいい。トータルバランスがいいから若い人でも安心して運転できるよ。」
林業の現場に数十年携わってきた鈴木社長だけあり、スカニアを含め本場の林業に関わる機械が優れているという話はとても興味深かった。「本場の機械」として何の迷いもなくスカニアを購入したという鈴木社長は、今後も林業仕様のトラックとしてスカニアの導入を続けていくとのことだ。
HIABの能力を最大限に引き出す、スカニアの性能
スカニアがこのジャンルで今後どのようなビジョンを持っているかをわかりやすく教えてくださった、スカニアジャパン株式会社 東日本リテール事業部セールス 齋藤 航也氏。笑顔が爽やか。
「日本では林業向けのトラックはスカニアが最適」と鈴木社長が語ってくださったことを聞いて、これまでもスカニアは日本国内のトラック・バスメーカーが現在製造開発をしていない分野において、重量物を牽引できる高い性能を誇るトラクターが市販モデルに近い状態で提供できることや、細かな特装の要望に応えた2階建てバスの開発などで「スカニアの強み」を大きく発揮してきたことを思い出した。それと同様に、「林業向けトラック」というジャンルにおいても、ヘビーデューティな使い方に耐える設計を持つ「スカニアならではの性能」を見せていることがわかった。
そこで、今回株式会社アメリカ屋にスカニアを納入したスカニアジャパン株式会社 東日本リテール事業部セールス 齋藤 航也氏に木材業向けトラックというジャンルでスカニアがどんなビジョンを持っているのかをお伺いした。
「林業でトラックを必要とされるお客様は、強いシャーシと力強い性能を求めています。また、林業のお客様は、多くが本場の欧州、フィンランドなど北欧に行かれて実際に現地で勉強されているのですが、先方でスカニアをはじめとした欧州製のトラックを目の当たりにすることで、本場の林業用トラックに雰囲気や性能を日本に帰っても反映したい、というご希望を持たれている方も多いです。私たちはそのご要望に少しでも近づけられるようにしたいと思っています。」
──今回アメリカ屋様で運用を開始した本場仕様のスカニアをご覧になられて、同じような仕様のスカニアを望まれる方が出てこられるといいですね。ところで以前、トラクターの分野のような特化したジャンルでスカニアのシェアを上げていく、というお話を別の取材でお伺いしたことがありました。林業向けトラックの市場でも、スカニアは同様の施策を行っていくというイメージでしょうか。
「はい、そうですね、この林業というマーケットは、大きいマーケットではありません。なので、国産メーカーで力を入れていない、車型を設定しないマーケットの一つです。“買いたいが車種がない”というお悩みを多くお聞きします。先ほども鈴木社長がおっしゃられていましたが、現在国内で購入出来る新車のトラックで、強いシャーシフレームを持つのはスカニア以外存在しないと言っていただけます。我々は、様々な特殊車両に力をいれており、既に多くの納入実績があります。同様の理由で、この林業というマーケットにも受け入れてもらえると確信しております。」
HIABは北欧、欧州では“現地のトラック”に搭載されるため、スカニア=ALUCAR=HIABという組み合わせは、前述のようにごく自然なものだ。そのためHIABクレーンの本来の性能を引き出すことができるのも、日本国内ではスカニアとの組み合わせだけである。
ところで、株式会社アメリカ屋がスカニアを採用した理由の中には、他に重要なことがあるという。
「HIABのクレーンは日本でもすでに数多くの代理店があり、30年以上の販売実績もあることからすでに普及をしています。これまでは国内メーカーのシャーシに搭載されていましたが、スカニアのトラックだとHIABが本来持っている能力を最大限に引き出すことが可能となった、というのも大きな理由です。そもそも現地ではスカニアとHIABは当然の組み合わせであるというマッチング自体の良さ、そしてスカニアのエンジンは、低回転、高トルクなので、PTO作動時もエンジンへの負荷が少ないです。PTO(パワーテイクオフ。エンジン出力を油圧ポンプなど作業用機械に取り出す機構)は、国産には無い直結型(ポンプを直接PTOへ繋ぐタイプ)700、1200Nmと高トルクなので、欧州の可変式ポンプを採用できました。クレーンの動きによって、油圧量を変化させる事ができるポンプです。全てが欧州製品の組み合わせなので、クレーン性能を最大限に引き出しています。国内メーカーのトラックのPTOではパワーを上げるにはエンジンの回転数を上げる方法ですので、燃費や騒音的、エンジンへの負荷面などでも不利です。また、ポンプも欧州の物は選定出来ません。そしてスカニアが持っている豊かなトルクは山間部の登坂で役に立ち、従来から好評をいただいているリターダーは重い木材を積んで急坂を下る際に大いに役立ちます。」
林業の本場北欧のメーカーが結集した「北欧トライアングル」で生み出された日本の新しい林業向けトラックは同業者からの注目を大いに集め、問い合わせも増えているとのことだ。鈴木社長が「欧州のプロが使うトラックは特装車にしても素晴らしいし、カッコもいいしイメージもいい。林業業界としても憧れのトラックになったらいいね」と語られたように、特化した業種の特化した「優れたブランド」として、優秀な資質を数多く備えたスカニアをベースとする林業向けトラックが一台でも多く上陸し、日本の林業を支え盛り上げることが今から楽しみである。
Text:遠藤 イヅル
Photos:YosukeKAMIYAMA