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SCANIAエンジンを搭載した“新しい日本の二階建てバス”。

製造開始から100年以上の実績を持つスカニアのバス

『SCANIA(スカニア)』はスウェーデンのトラック・バスおよび産業用・船舶用エンジンメーカーで、2016年現在欧州、中南米、アジアなど世界100カ国以上に拠点を置くグローバル企業である。バスはスカニアの主力製品のひとつで、ストックホルム近郊・セーデルテリエに1891年に起業した鉄道車両製造会社『VABIS(ヴァビス)』とスカニアが合併して『SCANIA VABIS(スカニア-ヴァビス)』となった1911年から製造が開始されており、100年以上の歴史を有する。これまでに製造したバスはのべ17万台で、歴史と深さと実績の大きさが伺える。

はとバス、スカニアのエンジンを搭載した観光バスを導入

日本にはたくさんのバス会社があるが、海外製バスの輸入は積極的に行われて来なかった。その理由として特に法規によってバスの規格が厳密に決められている日本では、国産バス製造メーカーから購入するほうがメリットとして大きいことがあげられる。日本向けではない海外製バスを日本仕様に合わせるのは容易なことではなく、たいへんな苦労が伴う。そもそも左側通行、左側ドアの国自体が少ないのだ。それもまた、長年にわたって海外製バスがあまり日本に走っていない理由である。

このような日本のバス市場の中で、東京をメインに定期観光バスを運行する『はとバス』がこのたびスカニアのエンジン・シャーシを使用したバスを導入することを決定した。過去幾度か海外製バスの導入実績がある同社が今回輸入したバスは「二階建て観光バス」。実はこのバスが日本にやってくるまでには大変な苦労があったという。ではなぜ海外製バスが選ばれたのか、そしてスカニアのエンジンが採用されたのだろうか。

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スカニア製エンジン・シャーシに、ベルギーのバンホール社製の車体を組み合わせる。鮮やかな「はとバスのイエロー」に塗られたボディは、日本の法規に向けて2.5mの車幅などをクリアした“スペシャル版”である。

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シンプルですっきりとしたエクステリアは欧州製バスらしいたたずまい。後部の車軸は2本。最後尾のタイヤがダブルになっていないことに注目。リアにあるシルバーのルーバー奥にはエアコンユニットが置かれる。

「海外製バス」が必要だった理由とは

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スカニア製エンジン採用二階建てバスの日本導入の立役者、株式会社はとバス 観光バス事業本部 車両整備部長 松井洋一氏。今回のバス導入までに7回も海外に足を運ばれたというストーリーを、膨大な資料とともに明るくお話してくださったが、その端々からはこのプロジェクトの大変なご苦労が偲ばれた。

136台の観光バスを保有するはとバスも、基本的には国産バスを採用しているが、今回、スカニア製エンジン採用の二階建てバスの導入に尽力されたはとバスの松井さん曰く、海を渡って日本にこのバスがやってくるまでになんと5年もの歳月がかかっているという。だがそれほどまでして海外からバスを持ってこなければならなかったわけがあった。というのも日本のバス製造メーカーは、2009年に二階建てバスの製造を中止しているからだ。眺望が良く、魅力がある二階建てバスが必需だったはとバスは、幾度もバス製造メーカーにかけあったものの、結果として製造は再開されなかった。そのため2009年以降二階建てバスの新車を走らせることは出来なくなってしまったのだ。

2016年現在10台ほどの二階建てバスを擁するはとバスは、2009年前後にも多数の二階建てバスを持っていた。そのため、この問題は大きかった。ゆくゆくは二階建てバスが寿命を迎えて一台もなくなってしまう・・・。そこで松井さんは、2011年から海外に目を向けた。海外、欧州のバス製造メーカーの中から日本に合う二階建てバスを探すことにしたのである。

2011年6月、松井さんほかプロジェクトチームは欧州へと向かい、欧州のメジャーなバス製造メーカー各社を回った。訪問して確認しないといけかったのがバスのサイズ問題だった。日本では法規で幅が2.5m以内と決められているのだが、欧州のバスは幅が2.55mなのだ。また全長も日本では12m以内だが、海外では13m以上が主だった。このサイズ問題が欧州製バスの輸入を困難にしていた。

日本に持ち込んでも走らせることが出来ない。走らせたとしても、決められたルートを走る路線バスに「緩和」として特別に認められた場合などのみ。自由に走り回ることが基本の観光バスにとってルートが固定されることはありえないことだ。だが結局その「幅5cmの壁」は越えられなかった。多くのバス製造メーカーが「日本向けサイズの車体を開発するなら、大きなロットで」と求めてきたのだ。いくら二階建てバスの台数が多いはとバスでも、その大きなロット数での購入は難しかった。

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全高3.8mの巨躯は大迫力。だがこれでも本場の二階建てバスの高さ4.2mに及ばない。3.8mは日本の法規の上限だが、全高も法規に合わせる必要があった。また、装備にも決まりがある。そのひとつが、この「非常ドア」。なお海外のバスの場合、ガラスが割れることで非常ドアと同じ役目を果たさせる。

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左側通行の国は少ないが、欧州でもイギリスは日本と同じく右ハンドル。そのため海外メーカーでも同国向けに右ハンドル仕様のバスを開発していることが多い。だが前述のように日本には法規の問題があり、そのままイギリス仕様を持ってくることは出来なかった。

ストーリーの前進とスカニアの採用

だがその後、大きくストーリーは前進する。訪問先のひとつだったベルギーのバス製造メーカー『Van Hool(バンホール)』から打診があったのだ。同社も大きなロット数があれば造る、日本の国土交通省に働きかけて日本で走らせられるようにしてほしい、と言っていたのだが、突如日本向けサイズでボディを作ってもいい、という姿勢に変わった。2012年のことだった。ある程度のロット数が求められたが、その数は充分にクリアできるものだった。

バスは「ボディメーカー」と「エンジン+シャーシメーカー」が別のことが多い。中にはスカニアのようにボディ・エンジン・シャーシいずれも製造出来る会社もあるが、バンホールはバスの車体を作れてもエンジンとシャーシは製造出来ない。ボディメーカーは決まった。次は、エンジンとシャーシのメーカーの選定となる。候補としてメジャーなエンジンメーカー数社が選ばれた。中には過去、はとバスで採用した経験のあるメーカーもあった。その当時は商社と国内自動車メーカーを通じてバスを輸入していたが、今回は、はとバスが一社ですべて仕様を決めなくてはならなかった。

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エンジンカバー上部にはバンホールの銘。バスは一般的に「ボディメーカー」と「エンジン+シャーシメーカー」が別(どちらも製造出来るところもある)だが、今回のバスは「ボディ=バンホール」、「エンジン+シャーシ=スカニア」という組み合わせになる。

その候補の中には、海外でバンホールとの組み合わせパターンがいくつもあるスカニアの名前もあった。海外における実績、低速トルクが豊富なエンジン特性や、現地法人として日本にありながら正規で部品調達が可能、かつサービス網が備わっていることから、最終的にスカニアが2014年頃に選定された。これまではとバスで採用したことのないメーカーのエンジン、ということでいくつか不安もあったとのことだが、決まるまでの話はトントン拍子だったという。なお、過去の海外製部品の輸入は商社を通すか、はとバス独自のルートで行っていたとのことだ。過酷に使用される観光バスにおいて部品供給やサービス体制は重要なポイントになるが、海外製メーカーでありつつも国産メーカーのような「正規のバックアップ体制」を持つスカニアの強みが発揮されたかたちとなった。

こうしてボディメーカー、エンジン+シャーシメーカーともに決定し、日本導入への道筋がようやく固まった。そして2016年。プロジェクト開始以来5年、スカニア製エンジンを搭載した“はとバスの新しい二階建てバス”はいよいよ日本に上陸した。欧州製バスのサイズを日本の法規内に収めるという高いハードルを見事に乗り越えたこのバスは、まさに松井さんの情熱と努力の結晶とスカニアの技術と体制が生み出した一台と言えるかもしれない。きっと、はとバスのみならず、日本のバスの歴史に刻まれるエポックメイキングなバスとなるだろう。

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ボディ後部に縦置きに搭載される410psの最高出力と2150Nmのトルクを誇るスカニア製直列6気筒12.74ℓディーゼルエンジン、「DC13 115」。欧州のEuro6、日本の平成26年規制の排ガス規制をクリアしている。

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整然としたコクピットは国産のバスとは雰囲気が異なる。ステアリングの中央にはスカニアのグリフィンが輝き、スカニア製エンジン搭載車であることをアピールする。トランスミッションはクラッチレスの機械式オートマチック(オプティクルーズ)で、操作はステアリングコラム右側から生えた小さなレバーで行う。

バリアフリー対応可能な二階建てバスの将来性

二階建てバスは、バリアフリーの観点からも注目されるという。観光バスは眺望を要求されるため「ハイデッカー」と呼ばれる着座位置の高いバスが主流なのだが、車いすの方などを乗せる際はリフトなどを用いていた。だが一階がフラットな構造を持つ二階建てバスなら、車いすの方も楽に乗車が可能なのだ。そのため、今回導入された二階建てバスの一階には、あらかじめ2台のクルマいすが固定出来るようになっている。

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クルマいすは後ドアから備え付けのスロープで乗降が可能。車内には2台分のクルマいす設置スペースが設けられている。床はフローリング調で、高級感がある。不燃難燃対策として素材は木ではなくロンリュームに木目を印刷したものだが、まったくそう見えない仕上がり。

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はとバスへのスカニア導入を担当したスカニアジャパン 東京本社セールス バスセールス課長 佐藤英樹氏(右)と、東京本社プリセールス プロダクトエンジニア 辻村央氏(左)。二人ともにバス愛に溢れた“バスガイ”だ。バスに精通しており、今回のプロジェクトにも熱い情熱を持って取り組んでいた。

はとバスの一大プロジェクト、海外製二階建てバス導入のサポートを担当したスカニアジャパンの佐藤氏、辻村氏は今回のスカニア製エンジンを搭載したバスを前にして嬉しそうに目を細める。前述のように2016年現在、国内メーカーでは二階建てバスを製造していないなので、観光バスのバリアフリー化という意味も含め、バンホール+スカニアの二階建てバスは国内唯一の存在となる。なお、はとバスではこのバスの導入を今後増やして行く予定とのことだ。

今回のバス導入は、より多くのスカニア製エンジン搭載バスが日本で活躍する契機になるかもしれない。2020年は東京オリンピックだ。観光バス、二階建てバスの需要もますます増えて行くだろう。北欧・スウェーデンの誇りと信頼、スカニア。このバスに乗った乗客が素敵な旅が出来ることと、街中にスカニアの名前がたくさん見られるようになることを多いに期待したい。

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日本仕様製作にあたり、各フロアともに20cmほど天井が低くされているという。一階のキャビンはボディ後半にエンジンとタイヤ、ラゲッジスペースが設けられているためミニマム。床はノンステップの路線バス同様にフラットとなっている。

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シックな色遣いが旅の質を向上させる。二階の定員は48名。階下6名と合わせて54名の定員を誇る。これも二階建てバスのメリットのひとつ。一般的なハイデッカーバスでは定員45名、補助席で54名などとなるため、補助席を含まなくとも1割以上の定員増を実現する。シートの形状はとても良い。

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二階建てバスに乗って感動するのがこの二階席最前列の眺望。乗った乗客の歓喜の声が聞こえてくるようだ。二階席のフロントウインドウにもワイパーはちゃんと備わっており、雨の日でも前を見ることが出来る。シートのアームレストは乗降を容易にするために跳ね下げ式。

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一階と二階を結ぶ階段は後ドア脇に設置。後部ドアはプラグ式で、外側にスイングして開く。手すり、ステップなどは目立つようにオレンジ色に着色されており、わかりやすい。

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頭上のコンソールにはエアコンの個別吹き出し口、照明などが備わる。USB端子も設置されており、スマートフォンの充電などに便利。

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純海外製バスだが、日本で使用するためにいくつか独自の仕様になっている。オーディオシステムは一般的な観光バスに見られるタイプで、ここだけ見たら日本のバスのよう。定期観光以外にも一般的な観光バスとしても運用出来るようなシステムが選択されている。

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日本製メーカーの銘と「マイク」の文字。日本のバス同様の装備だ。日本に輸入後に装着したのではなく、ベルギーに部品を送り装着したのだという。

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一階奥に置かれるバス旅の必需品である冷蔵庫。これも日本製のバス向けだが、ほかの独自装備同様にベルギーのバンホールに空輸されて装着したもの。

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構造上荷物棚が設置出来ないこともあり、ボディ後部、タイヤの上に充てられたラゲッジスペースの存在は重要。左右からアクセス出来るが、左側には収納式の階段が設置されている。

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前ドア上部には、このバスがバンホールとスカニアの製造であることを示す銘板が取り付けられている。もし乗る機会があったら、ぜひ確認してほしい。

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外観からはスカニア製エンジンを積んでいることを示す箇所は少ないが、その一つがこのホイールセンターのグリフィン。今後はスカニアの文字を車体に掲出する予定だという。

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2009年以来国内で久しかった二階建てバスの新車は、まさかの海外製バスとなった。情熱と努力が生み出した新しい二階建てバスにはスカニア製エンジンが積まれ、2016年4月、ついに東京の路上を走り出す。街の風景を変えるデザインを持つこのバスの活躍がとても楽しみだ。

Text:遠藤イヅル
Photos:庄野正弘

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