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豪雪地長岡と北欧SCANIAのタッグで生まれた雪上車RIZIN

世界有数のトラック・バス・エンジンメーカー、スカニア

スウェーデンのトラック・バスおよび産業用・船舶用エンジンメーカーである『SCANIA(スカニア)』。その規模は大きく、2016年現在欧州、中南米、アジアなど世界100カ国以上に拠点を置くグローバル企業である。欧州の道路を運転したらスカニアのトラックやバスを見ないことは無いほどだ。またスカニアは前述の通り産業用エンジンのメーカーでもある。北欧の厳しい環境が生む耐久性や信頼性の高さはスカニアの大きな強みで、世界各国の建設現場で働くダンプトラック、ホイールローダー、砕石機などの多くにスカニアのエンジンが数多く採用されている。

スカニアの歴史は古く、20世紀最初の年まで遡ることが出来る。スウェーデン南部スコーネ県の都市マルメに乗用車とトラックを生産するための会社「スコーネ機械製造工場」を意味するスカニアが誕生したのは1900年のことだ。そして1911年、ストックホルム近郊の都市、セーデルテリエに1891年に起業した鉄道車両製造会社『VABIS(ヴァビス)』と合併、『SCANIA VABIS(スカニア-ヴァビス)』が誕生した。同社はその後も発展を続け、1969年、同じくスウェーデンの航空機・自動車メーカー『SAAB(サーブ)』と合併、『SAAB SCANIA(サーブ・スカニア)』が発足。サーブ・スカニアという社名はスカニアが1995年に独立した後もサーブのエンブレムにスカニアの文字が残っていたことで覚えている方も多いかもしれない。またサーブ、スカニア両社ともに、火を噴くグリフィン(スコーネ地方の紋章)を現在でもエンブレムに使用していることが共通する。

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日本製のゲレンデ整備車、スカニアのエンジンを採用!

産業用エンジンを載せる機械や車両はいくつか種類があるが、スキー場のゲレンデ整備を行う「ゲレンデ整備車(雪上車)」もそのひとつだ。スキー場はオープンする夜明け前、ゲレンデ整備車で整備を行っている。作業は日が昇らない時間や吹雪などの悪天候の中であることが多いうえに、急峻なゲレンデで停止してもそのまま登坂したり、滑り落ちたりしない性能も要求される。寒さによる凍結とも戦わねばならない。つまり、ゲレンデ整備車は想像を超えるほどの過酷な環境で使用される車両なのだ。クルマやトラック好きでも知る人の少ない“知られざる、重要なはたらくくるま”である。

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ゲレンデ整備車はゲレンデがオープンする前に活躍するため、動いているシーンを目にすることはあまりない。だが、ゲレンデにはなくてはならない重要な車両だ。

雪上車のジャンルは特殊でもあるため、製造しているメーカーは世界でも現在3社しかない。そのひとつに新潟・長岡に本社を構え、日本で最初に雪上車を開発したメーカー『大原鉄工所』がある。同社は長きに渡って製造されてきた主力機「DF350」の後継として、このたび新型ゲレンデ整備車『RIZIN(雷刃)』を発表したが、RIZINにはスカニアのエンジンが選定されている。搭載されているエンジンは350psを発生するスカニア製9ℓディーゼル「DC9」で、アメリカのTier4F、欧州のStage4、日本の平成26年規制の排ガス規制をクリアした最新版である。

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大原鉄工所が新たに開発した新型ゲレンデ整備車RIZIN。従来の機種「DF350」の後継機にあたる。なお、同社はこのクラスよりも上の大型機「DF430」や、他人数乗りで貨物も運べる多目的装軌車「Caliber」などをラインアップする。

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ゲレンデ整備車の特徴がよくわかるショット。本体中央はほとんどエンジンなどの走行機器が占める。前方には排雪ブレード、後方には圧雪ローターを備える。RIZINのデザインは外観を長岡造形大の和田学長、運転席の視認性やキャブ強度解析についてのコンピューターシミュレーションを県工業技術総合研究所が行った。ゴールドのカラーリングがスタイリッシュ。

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基本的には朝日の昇らない時間、場合によっては吹雪の中、照明もつけずに作業をすることもあるという。そのため、ゲレンデ整備車は特に視界の広さが重要である。大原鉄工所の車両はエンジンカバーを斜めにカットしたことによって後方視界を確保、目視によるローターの作動を確認出来る。

 

スカニアのエンジンを採用した理由

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ゲレンデ整備車は、ご覧のような急斜面からも起動できるパワーが求められる。

日本のゲレンデ整備車における大原鉄工所のシェアは約40%。残りを海外製メーカー2社で分け合う。だが、大原鉄工所の雪上車の強みは「日本の雪に合っていること」だという。そこで、20数年前から大原鉄工所で雪上車の開発に関わり、RIZINの生みの親でもある技術部の馬場さんに、同社の雪上車の特長と、スカニアエンジンが採用された経緯をお聞きすることにした。馬場さんによると、日本のスキー場は欧米に比べて標高が低いことと、雪自体が湿っていることなどから雪質が異なるという。そのため大原鉄工所のゲレンデ整備車は日本の雪・ゲレンデに合った設計がされているということだ。欧米のスキー場はバーンが硬めなので雪上車は重くエンジンパワーも大きめの傾向になる一方、日本ではむしろ雪上車は軽い方が良いとされるなど、設計思想自体が異なっているのだ。

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RIZINの生みの親である、大原鉄工所 技術部車両設計課係長 馬場実氏。知られざる車両である雪上車についてわかりやすく解説をしてくださった。スカニアのエンジンの性能にはたいへん満足しているという。自らもスキーを楽しまれるため、ゲレンデ整備車がゲレンデで求められる性能をよく熟知しておられたのが印象的だった。

なお、ゲレンデ整備車は開発にとても時間がかかるという。設計をしてもテストできるのが冬期だけということだけでなく、短い間に雪質、様々なゲレンデ、気温、天候などあらゆるシチュエーションを開発機は経験しないとならない。大原鉄工所最新のゲレンデ整備車RIZINも、後部に装着されてゲレンデをならす圧雪ローターの開発に5年以上を要している。これほど年月がかかる車両ともなると開発コストを抑えることも重要なファクターとなる。開発の核となる動力部に関しては、従来では産業用エンジンメーカーからのエンジン供給はあっても補機であるラジエターなどは別開発や別部品を流用する必要があった。だが、スカニアはエンジンとラジエターなどがセット(ユニット)となっており既存の実績ある部品を組み込むことが出来るため、コストダウンや開発期間の短縮が可能であると判断されて採用に至ったという。

実は、大原鉄工所にはスカニアのエンジンが納入された実績がすでにある。それは、南極地域観測隊が使用する究極の南極用雪上車「SM100S 17号車」への搭載だった。気温がマイナス90℃にも達する地球上の車両にとって最も過酷な使用状況の中、スカニアのエンジンは良好な性能を示した。南極用雪上車が示したスカニアの信頼性と耐久性も、RIZINにスカニアのエンジンを積む決定を大きく後押ししている。

そして、RIZINに積まれたスカニアのエンジンは、低騒音によるオペレータへの負担軽減、低回転からの豊かなトルクがもたらすパワーと燃費の良さ、北欧の厳しい環境が生んだ低温での優れた始動性などの性能を遺憾なく発揮することとなった。

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雪をローターで粉砕撹拌した後、綺麗な滑走面を形成する後部の圧雪ローター。開発には5年以上を要したという。3分割されておりご覧のように左右が大きく可動する。雪質に合わせて撹拌する量を変動できる可変式レギュレーターを採用するなど、あらゆる場面に対応できるよう設計されている。

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バス用をそのまま使用することが出来たラジエター。スカニアが採用された理由のひとつに、エンジン、補機類がセット(ユニット)で供給可能だったことがあげられる。なお、ラジエターがキャビン後部に設置されるのは、長年の雪上車設計の豊富な経験から。

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キャビン上部右サイドには“POWERED BY SCANIA”のプレートが。スカニアエンジン搭載車の証だ。カッコイイ!

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RIZINの動力源であるボディ本体の中央を埋めるスカニア製DC9型エンジン。9ℓの5気筒OHVで、最大出力は257kw(350ps)、定格回転数は1500rpm。基本的にはエンジンは一定速度で回転して使用する。

日本市場とスカニア

今回スカニアと大原鉄工所の橋渡しを担当したスカニアジャパンの眞山氏は「RIZINへのエンジン搭載に関してはたいへんな苦労があった」と話すが、晴れて完成したRIZINを見る表情は喜びに満ちていた。また、自らもスキーを愛好する眞山氏は、自らの製品であるエンジンがゲレンデ整備車に採用されたことをとても嬉しいとも語った。

眞山氏曰く、今後はスカニア製エンジンを広く日本の産業界に展開していきたいと張り切る。なお、日本でも海外メーカーのトラック・バス・産業用エンジンは少しずつであるが浸透しており、スカニアも2015年夏に新潟市で開業したバス高速輸送システム(BRT)に、オーストリアのボルグレンが製造するボディを持つ連節バスにスカニアが開発したシャーシとエンジンが採用されたばかり。トラックも2015年からセミトラクタだけでなく3軸ロング版も発売が開始、豊富な荷台とキャブバリエーションを用意してスカニアトラックの魅力をアピールしている。北欧・スウェーデンの誇りと信頼、スカニア。日本におけるこれからの活躍が楽しみである。

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大原鉄工所の馬場氏同様、自身もスキーヤーであるスカニアジャパン 東京本社 セールス エンジンセールス課長 眞山晴行氏。

地域全体で雪上車の開発をバックアップ

終戦直後においても、新潟の豪雪地帯ではまだかんじきなどに頼っていたため交通が遮断されていた。その状況を救うべく当時の県知事から大原鉄工所が開発依頼を請けたのは1951年。同社が選定されたのは、豪雪地・長岡の地元資本の機械メーカーであり、古くから石油掘削機器の製造を行っていたことによる。だが開発は容易ではなかった。

当時の同社専務上村清五郎氏は、戦後すぐ妙高高原を訪れた際、進駐軍が持ち込んだウィーゼル水陸両用車の履帯が水分の多い日本の雪に耐えきれずに切れてしまったことを思い出した。だが氏はその一方で雪上車の利便性にも目を見張った。雪上車があれば冬でも交通の確保や経済活動が閉塞せずに済む、とも考えたのだ。乗り物すら開発したことのない大原鉄工所にとって雪上車の開発は難産となったが、やがて実用化に成功、不断の努力を続けたことにより世界の3本の指に入る雪上車メーカーとなったことは前述の通りである。

取材中、大原鉄工所の開発スタッフが雪上車を見守る眼差しはまるで我が子を見守るような暖かさだった。お話を伺っても自社の製品に誇りを持ち、雪上車を心から愛していることを感じた。この熱く優しい技術者たちが求める高い要求のハードルを超えてスカニアが採用されたことは、まさにスカニアの歴史と技術力が育んだ高い性能の証明でもある。

大原鉄工所の技術部長、鈴木氏は最後にこう語った。「わたしたちの会社では井戸の掘削機器、水門、リサイクル機器などいくつかの部門を持ちます。どれかひとつが傑出しているわけではありませんが、それぞれの分野でトップを目指しています。ローカルでニッチな製品たちですが、それが強みでもあるのです。雪上車もそのひとつです。開発にはスキー場をはじめとして多くの方々の協力が不可欠ですが、雪国新潟の地の利を活かし、地域全体の協力を得ることが出来ています。」

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大原鉄工所は大都市の大規模メーカーではない。だが、逆にそれを活かして素晴らしい製品を送りだしている。これこそが、「日本の工業製品の底力」なのだと思った。スカニアは遠く離れたスウェーデンのメーカーだが、より良い製品を供給したいという思いは少しも変わらない。熱い心を持つ長岡の職人たちの集う大原鉄工所の思いに応え、スカニアはこれからも彼らのバックアップを続けて行くことだろう。

日本の繊細で細やかな技術と信頼性の高いスカニアのパワーパックのタッグで生まれた大原鉄工所のRIZIN。日本のゲレンデ整備車の新たな1ページだ。

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キャビンは広く、快適。左手で左右への操舵と前進後退、右手でブレードとローターを操作する。細かな調整が求められる作業のためミリ単位の繊細な操作性を持ち、ゲレンデ整備車は想像以上にクイックな挙動を示す。乗車の際はアームレストが跳ね上がる。

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コクピットを逆アングルから。3名が搭乗出来る。サイドの2席はスポーツカーなどにも採用されるレカロシートを備える。後方視界も良いことがわかるだろうか。窓の曇り取りは、窓自体に入れられた熱線による。

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一度ゲレンデに出たら、数時間、長いときは8時間にもなるというゲレンデ整備はとても厳しい作業だ。そのためキャビン内にはオーディオも備えられ、良好な作業環境の確保に務めている。半袖短パンで乗務するオペレータもいるという。

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安定した雪上走行を可能とする履帯は、柔らかい材質で出来ている。柔らかいため、湿った雪でも固着することがないのだという。ホイールは有名なアルミホイールメーカー、BBS製だ。

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エンジンで発生したパワーは油圧に変換され、各部の駆動に用いられる。キャビン下にはそのコンポーネンツが集中する。大きな車両だが、機器が搭載できるスペースはとても小さい。開発はたいへんだったという。

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キャビンとエンジンカバーを開いたRIZIN。

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前部のブレードはプラスチックコーティングが施され着雪を防止する。可動範囲はたいへん広い。

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雪が深くともどこまでも進んで行けるゲレンデ整備車と圧雪ローター、オペレータの技術によって美しい滑走面が作り出されていく。

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Text:遠藤イヅル

Photos:横山マサト

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