サービスネットワークを拡げるスカニア
突然だが、グリフィンマガジンを読まれている方で、輸入車ユーザーも少なくないかもしれない。輸入車をチョイスする理由はもちろん製品やブランドの高い魅力があると思うのだが、その一方で気になるのは、やはり買った後のメンテナンスや点検整備、修理、車検、部品供給などのサービス体制ではなかろうか。住んでいるエリアに自分が好むブランドを扱うディーラーやショップが無いと不安、と感じることもあるのは確かだ。欧州を中心に世界中で活躍する北欧スウェーデンのメーカー『SCANIA(スカニア)』の製品も、日本では数少ない輸入車のトラック・バスとなるため、ユーザーがスカニア製品を購入する前後には、乗用車同様の充実したアフターフォローも選択の決定打となることがあるだろう。また、販売拠点が増えることは多くのユーザーが製品を見る機会を増加させ、販売台数の向上にも直結する。
そのため、設立から5年となるスカニアジャパンでは日本各地に協力ディーラー・協力整備工場のサービスネットワークの拡大を進めており、着々と新しいディーラーが誕生している。編集部では福井県の『湖北モータース』のご紹介の際に、サービス拠点が2016年4月現在、2箇所の直営ディーラーを含め全国で16箇所となっていることも含めお伝えしているので、ぜひともご覧になっていただきたい。
真っ白な社屋にアクセントとなる濃紺のスカニアロゴが美しく輝く。
日本におけるスカニアサービスネットワークの中核、富里ディーラー
このように拡大を続けるスカニアジャパンのネットワークの中でも特に重要な拠点が、前述の「2箇所の直営ディーラー」だ。完全にスカニアジャパンが経営するディーラーであるため、スタッフ全員がスカニアジャパンの社員であることはもちろんのこと、本国スウェーデンにあるスカニア本社の意向をそのまま反映していることが特徴だ。その意向とはディーラー内外装の意匠やCIといった店舗の作り方に留まらず、社員への福利厚生といった面も本社に合わせられており、いわば日本におけるスカニアディーラーのモデル店、ベンチマークディーラーというべき存在となっている。
「スカニアジャパンには千葉県の富里市と大阪に直営ディーラーがあります。なかでも富里は新車の販売、メンテナンス、点検整備、修理といったディーラー本来の仕事以外にもPDI(納車前整備=Pre Delivery Inspection)センターとしての機能があり、日本に船でやってきたスカニア製品の納車前整備を行います。また、全国の協力ディーラーのメカニックやスタッフの教育にも富里ディーラーが使用されます。」
と教えてくれたのは、富里ディーラーのマネージャーを務める、スカニアジャパン 東京本社 リテール事業部 東日本担当部長 池澤 順一氏。そしてPDIセンターではどのような整備が行われるのかについて、池澤氏は話を続けた。
「PDIセンターでは日本の法規に合わせた整備や部品取り付け、そして荷台を載せる架装メーカーに行く前の下準備などを行っています。公道を走らない構内専用車の納車前整備なども行うことがあります。」
日本を経由していくのは、スカニアジャパンのメカニックの優秀さの表れだという。前述のように日本では数少ない輸入車のトラック・バス(および産業用エンジンメーカー)であるスカニア製品がしっかりと事前に多くの輸入車と同じように優秀なメカニックによる納車前整備が行われていることは、とても心強い。
スカニアジャパン 東京本社 リテール事業部 東日本担当部長 池澤 順一氏。富里ディーラーのマネージャーも兼任する。明るい笑顔が印象的。
店舗デザインは本国のCIに準ずる。洗練された北欧的なモダニズムが漂う。男らしい屈強な乗り物であるトラック、働く車の代表であるバスとのイメージギャップもスカニアの魅力なのだ。
富里ディーラーのバックヤードでPDIセンターによる納車前整備を終えたトラクターが並ぶ。スカニアファンならずともトラックファンなら歓喜してしまう光景。かくいう筆者もそのひとり。
直営ディーラーならではの強み
続いて富里ディーラーのセールスを担当する スカニアジャパン 富里ワークグループ セールス トラックセールスの松井 孝亮氏に、富里ディーラーが直営ディーラーであることの特徴や強みをお伺いした。
「やはり最大の特徴とメリットはスカニアからの直販だということです。お客様と密に連絡を取り合うことがとても多いので、お客様からのご要望など直接くみ上げた声をスカニアジャパンだけでなくスカニア本国にも反映させることが出来るだけでなく、それを反映した整備やサービスが可能なのです。コストの問題としてとても重要な燃費に関しましてもドライバーさんとの連携も強めて数値向上のアドバイスなども行っています。それと、直営ですので、スカニアのみの取り扱いというのも強みです。専門のスタッフ、メカニック、工具などを持っていますから、言うなれば“スカニア専門の中の専門”店です」
富里ディーラーではセールスとサービスが常に密接に連携してユーザーとのコミュニケーションに力を入れているほか、「ユーザーが購入した後」のアフターフォローがとても充実している。これは直営店のみならず、スカニアジャパンの大きな特徴のひとつでもある。
スカニアジャパン 富里ワークグループ セールス トラックセールスの松井 孝亮氏は富里ディーラーでセールス(営業)の任をあたられている。直営ディーラーの強みを教えてくださった。
富里ディーラーで整備されるユーザーのスカニアトラクター。整備に関してもセールスの役割は大きい。
働きやすい環境を誇る富里ディーラー
PDIセンターを備え、販売や整備の中核でもある富里ディーラー。実際にどのようなメカニックが働いていて、どのような場所なのか、そしてどのような業務を行っているのかについて、富里ディーラーの現場を統括するスカニアジャパン 東京本社 ディーラー開発マネージャーの稲岡 広伸氏にお聞きするとともに、富里ディーラーの整備工場を案内していただいた。
「富里ディーラーの業務比率はPDIが7割、残りが点検整備、メンテナンス、修理です。メンテナンスに関しては日本の法規に準じたサイクルでの法定点検と、スカニア独自の基準で決めたメンテナンスサイクルがあり、どちらも行っています」
スカニアジャパン 東京本社 ディーラー開発マネージャーの稲岡 弘伸氏。良い製品は良い環境から、という言葉はとても説得力があった。
PDI(納車前整備)を行なうトラクター。右は日本市場向けでは最大の出力を誇るR580(V8エンジン搭載)。580は馬力を、RはスカニアトラックのRシリーズキャブであることを示す。
稲岡氏は、富里ディーラーは重要な拠点であることはもちろんのこと、他にも大きなポイントがある、と続けた。
「メカニックが全員20代というのもと富里ディーラーの個性的なところです。そして富里ディーラーでは、改善活動に力を注いでいます。若い彼らが彼らなりに思った、働きやすい職場環境や作業上での改善案などを上長に伝えやすい環境を目指しています。率先して良くしていこう、という気風ですね。スカニアジャパンとしても勤務とライフのより良いワークバランスの確保に努めていますが、それを彼ら自身の声で得ることができるようにしています」
福祉大国と呼ばれるスウェーデンを母国に持つスカニアだけあって、労働環境の改善について積極的な姿勢を持つ印象を受けた。稲岡氏の言葉をお借りすれば、「もちろん一番大事なのはお客様です。ですが、そのためには働いているスタッフの環境を良くするべき」とスカニアは考えているのだ。よい製品は良い環境で働くスタッフによるものだというこの考え方は、スカニア製品の品質や良質な雰囲気とリンクしていると感じた。
富里ディーラーで働く若きメカニックたち。
いまや整備にもコンピューターは欠かせない。スカニア専用の診断機で細かなデータを確認していく。
合理的で整理整頓された作業環境
富里ディーラーの広い敷地内には大整備工場とディーラー本屋が入った真っ白な社屋が建つ。トラック自体が大きいため広さ感や天井の高さがわかりにくいが、ディーラーの建物が2階建てで、それがすっぽり入っているといえばイメージしやすいかもしれない。
興味深いなと感じたのが、とにかく美しく整理整頓されていることと、整備工場によく備わっているジャッキやピットといった整備レーンが存在しないことだった、稲岡氏に聞いてみたところ、ピットレーンやジャッキの代わりに移動式のジャッキやクレーンを備えているのだという。それならたしかに整備内容によって大きなトラックやバスを移動する手間がはぶけるだけでなく、構内に停めてあればどこでも整備が可能なのだ。とても合理的である。整理整頓されていることとこのジャッキなどで、メカニックではなくても作業がしやすそうに感じられるほどである。
美しく整理整頓された工場内。良い仕事は整理整頓から、という言葉を思い出させる。
これがトラックやトラクターを持ち上げてしまう巨大ジャッキ。移動式なのでどこでも持ち上げる事ができる。
こちらはクレーン。前後の移動に限られるが、移動式のメリットは大きいはずだ。脇に置いてあるウマもジャッキも巨大!
良い製品を生み出す環境が備わるスカニアとスカニアジャパン
作業の合間を縫って、「若きメカニックたち」のひとり、富里ワークショップ サービス&パーツ メカニック 小貫 将志氏にもお話を聞く事ができた。稲岡氏の語った通り、声を出すことで改善されていく職場とのことだ。実際に現場の声が社長まで届くことで、不満が溜まりにくい職場であるとともに本国の本社からトレーナーが来日して整備のトレーニングをしてもらえるなど、環境への満足感も高いという。
彼らが働く脇に、スウェーデンカラーの工具箱があった。スカニアの整備に特化した専門工具で、彼らにはこの工具がスカニアから与えられるのだという。品質が良く精度が高い工具はメカニックにとって必須の作業ツールだが、自費で購入することが多いのではないだろうか。スカニアでは仕事に関わる出費も抑えようとしている。この工具箱ひとつを取っても、よりよい作業環境を、と考えるスカニアの社風が感じられるのだ。
今回の取材でお話を聞くことができたスカニアジャパンの小貫氏、稲岡氏、松井氏、池澤氏ともにご自身の仕事内容に関して、まるで事前に考えてきたようによどみのない、そしてとてもわかりやすいご説明とご回答をいただけた。これは案外誰しもが的確に言えるものではない。スカニアジャパンのスタッフはみな、スカニアを、そしてスカニアを誇りに思っているからこそできることなのだと思う。クールで洗練されたイメージのスカニアだが、働いているスタッフはみな情熱的なのだ。
勤めている会社に誇りがあれば、製品は間違いなく良くなっていく。その「ものづくりの考え方」は、我々日本人の気質にも合っている。もっと多くの方々がスカニアの企業理念や社風、そして製品作りの「こころざし」を知れば、今よりも多くのスカニア製品が日本で活躍すると実感した取材だった。
富里ワークショップ サービス&パーツ メカニック 小貫将志と、スカニア本社から来日したトレーナー。整備の技術はたとえマニュアルがあっても、やはりこうして声と手で伝えていくものなのだ。
スウェーデンカラーの工具箱の中はスカニア専用工具が収まる。各メカニックはこの工具箱をスカニアから与えられている。スカニアのメカニックとして誇りが持てるに違いない。
PHOTO GALLERY
Text:遠藤 イヅル
Photos:横山 マサト