2019年で創業128年を迎えるスウェーデンのトラック・バス・産業用エンジンメーカー『SCANIA(スカニア)』。同社を代表する製品であるトラックの製造も1902年と早く、今年で117年という長い歴史を持ちます。そんなスカニアトラックの歴史を辿るべく、「VOL.01 1900年代〜1945年代」「VOL.02 1945年代〜1970年代」「VOL.03 1970年代〜1990年代」「VOL.04 1990年代〜現代」という全4回構成でそのヒストリーを追っていきます。第1回となる今回は、最初のトラックが生まれた1900年代から、第二次世界大戦が終結した1945年までの20世紀前半をお送りいたします。
【1900年代】最初のトラックは117年前の1902年に登場
スカニアは「スコーネ機械製造工場」を意味する「Maskinfabriks Aktiebolaget Scania=スカニアマシンファブリスクア株式会社」として1900年に設立されました。場所は、スウェーデン第3の都市で“スカニア発祥地のひとつ”マルメ。スカニアのエンブレム「グリフィン」はマルメ(Malmö)の紋章で、現在も同社の象徴として使用されています。
1902年型 ヴァビス第1号トラック
1902年に登場したヴァビス第1号トラック。最高時速は12km/h。
マルメを「発祥地のひとつ」としたのは、スカニアにはもうひとつのルーツがあるから。それが1891年設立の「VABIS」(ヴァビス / セーデルテリエ鉄道車両製造会社=Vagnfabriks Aktiebolaget iSödertelge)で、当初は鉄道車両メーカーでした。社名に入るセーデルテリエは、ヴァビス創業の地で、現在のスカニア本社がある都市です。
スカニアは1901年、ヴァビスは1897年にまず乗用車の開発を行ったのち、1902年に両社ともに積載量1.5tの第1号トラックを生み出しました。それにしても今から117年前、日本でいえば明治35年。すでにスカニアはトラックを製造していたのですから、その歴史の深さに驚かされます。
1909年型 E型トラック
1909年、スカニアE型トラックは、マルメからストックホルムまでの692キロの旅にチャレンジした。果てしなく未舗装路が続く当時の道路事情では、この距離は大変厳しかったが、参加した5人は約3日かけてストックホルムに到着している。
【1910年代】スカニアとヴァビスが合併。トラックの生産がますます加速
1911年、スカニアとヴァビスは合併して「スカニア・ヴァビス」に。これによって工場が集約され、当時まだ製造が行われていた乗用車の生産をセーデルテリエ、トラックやバスなど大型車両の製造をマルメが行うことになりました。
自動車が社会に浸透していくなかで、スカニア・ヴァビスは郵便車や消防車などでも活躍を開始しています。
1913年型 スカニア・ヴァビス タイプ2S 郵便トラック
1912年からスウェーデンの郵便局で使用が開始された郵便トラック。最高出力は16〜20ps。
1915年型 スカニア・ヴァビスDla型 消防車
1911年から1926年まで生産されたDla型トラックをベースにした消防車。4気筒エンジンを搭載する。
第一次世界大戦が終わった1918年頃、マルメのトラック生産はフル稼働状態となり、年産能力は125台に達しました。量産方法は米フォード社と同様の流れ作業によるもので、その多くが海外に輸出されました。
1919年型 スカニア・ヴァビスClc型トラック
CLc型トラックは1912年から1924年まで生産された。30psの4気筒ガソリンエンジンで最高時速は20km/h。写真のトラックは1919年型で、積載量2t。
【1920年代】乗用車の生産を中止。トラック・バス製造に注力
1927年、それまで2ヶ所あった生産拠点のうちマルメ工場が閉鎖され、セーデルテリエに一元化されることになったのです。さらに、それに合わせて乗用車の製造から完全に撤退。トラックとバス生産に特化することとなり、現在のスカニアの姿に近づきました。
集約されたセーデルテリエ工場からは、新しいトラックのシリーズが誕生しました。性能が向上したことから最高時速は倍になり、さらに空気入りタイヤへと進化して乗り心地も良くなりました。
1927年型 スカニア・ヴァビス 3251型 タンカートラック
DLa、CLc型などのトラックを置き換えるため1925年に登場したのが314/324/325型。写真のタンカートラックは3251型で、エンジンは4.3ℓ直4OHVガソリン。324型には直6エンジンも搭載。チェーンドライブからシャフトドライブに、トランスミッションも4速へ、キャブが密閉式になるなど大幅に進化した。
「フリーケン」と呼ばれる数奇な運命を持つ1928年型トラックは、1936年にスウェーデン西部のフリーケン湖で、凍結した湖面上を速歩競争用に除雪していました。しかしあるとき、氷の割れ目から湖に落下してしまったのです。乗っていた2人は無事に脱出したものの、トラックはその後49年間、湖底約65mに沈むことになりました。1985年に引き上げが行われてから運転可能な状態まで再生されましたが、使用できなかったパーツやボディはわずかだったとのことです。
1928年型 スカニア・ヴァビス 3256型 “Fryken”トラック
1936年に冬のフリーケン湖に沈んでしまい、1985年に引き上げられたのちに走行可能な状態まで修復されたものと同型の3256型。「フリーケン・トラック」の愛称を持つ。荷台は三方向に傾けることができる。
【1930年代】トラックの性能を大きく向上させるディーゼルエンジンを開発
スカニア・ヴァビスは、1931年に従来のモデルより大きなシリーズを発表。輸送力の増強が図られました。335型をはじめとするこのモデルには、特徴的な「ヘッセルマンエンジン」が積まれていました。1932年から1936年まで製造されたこのエンジンは、ガソリンエンジンとディーゼルエンジン両方の性質を持っており、ガソリンで始動したのち燃料を経由や重油、灯油に切り替えて動かすことが可能でした。これによりランニングコストを大幅に削減できたのです。
1936年型 スカニア・ヴァビス 335型
4〜5t積みの大型トラック、335型。車体が大きくなり、後軸がダブルの3軸車となっていることがわかる。1936年からはヘッセルマンエンジンに変わってディーゼルエンジンが積まれた。
1933年型 スカニア・ヴァビス 355型
当時としては画期的なキャブオーバー型スタイルの355型。335型シリーズに属したモデルで、同形態には345型も存在。345型はブルドックと呼ばれ親しまれた。どちらも時代を先取りしすぎたため生産期間は短かったが、スカニアの先進性を示す車種とも言える。
スカニア・ヴァビス初のディーゼルエンジンが開発されたのは1936年のことでした。予熱燃焼室を持つこの6気筒ディーゼルエンジンの搭載によってスカニア・ヴァビスのトラックの性能は大きく向上。以降、急速にヘッセルマンエンジンを置き換え、ディーゼルエンジン搭載が拡大していきました。
1939年 スカニア・ヴァビス 最初のディーゼルエンジン
1936年、スカニア・ヴァビス初のディーゼルエンジンが開発され、335/345型に搭載が開始された。1939年には「ロイヤル」と呼ばれた、モジュラーシステムのはしりとなるディーゼルエンジンも登場している。
【1940年代】第二次大戦勃発に伴う燃料供給減から木炭自動車を開発
1939年、第二次世界大戦が開戦。スウェーデンは中立国を宣言しましたが、国土防衛の必要に迫られスカニア・ヴァビスのセーデルテリエ工場では個人顧客への販売停止、生産設備の倍増、トラックの増産が始まりました。続々と入る注文に対応するため、1939年に800人だった従業員は、1945年には1500人を超えました。
一方で燃料の供給が逼迫したため、木材を燃焼して発生したガスを燃料として利用する、いわゆる「木炭自動車」が1941年から生産されました。
1940年代 スカニア・ヴァビス セーデルテリエ工場
第二次世界大戦中、次々とトラックを製造するスカニア・ヴァビスの工場。直8エンジンと縦に大きな木質ガス発生炉がわかる。
1941年型 スカニア・ヴァビス 335型
そしてこちらが完成した姿。1941年から生産された335型の木炭自動車である。キャブ後部の10.3ℓ発生炉で木質ガスを発生させ、ボンネット内の直8エンジンに供給した。
1944年からは民間市場向けの新しいシリーズ「L10型」を投入。モダンになったボディに90psの高出力を発生する4気筒ディーゼルエンジンを搭載していました。L10型は戦後も引き続いて生産され、復興を支えました。
1944年型 スカニア・ヴァビス F11型
1944年、L10型シリーズで民間向けトラックの生産を再開した。写真のモデルは4輪駆動のF11型。
創業時から1945年の終戦にかけてスカニアが手がけたトラックの歴史を見てきました。スカニアは、黎明期から次第に普及していった自動車の進化、社会の変化をしっかり捉えて発展してきたことがわかります。引き続き、スカニアトラック進化の歴史を掘り下げてみたいと思います。
Text:遠藤 イヅル