Culture

駅が美術館?!スウェーデン・ストックホルムの地下鉄アートとは

「世界で一番長いアートギャラリー」という異名をもつストックホルムの地下鉄は、110キロメートルに渡って配置された約100の駅に、1950年代からの現代までの約150名の芸術家による、絵画、モザイク、彫刻、レリーフなど、様々な芸術作品が展示されています。ただ単に駅の改札やホームに芸術作品を飾っているというのであれば他の国にもありそうですが、ストックホルムの地下鉄アートは、普通なら安全と安心に重点が置かれる駅全体を空間として捉え、駅という公共の場にアートを融合させることで、快適さと美しさを追求している点が特徴的です。本来の「場所と場所を繋ぐ」という駅の機能性のみではなく、アートとデザインで各駅にアイデンティティを生み出し、誰もが平等に使える公共の場だからこそ可能な形で、人々の日常をより豊かなものとしています。
今回は、そんなスウェーデンならではの機能性とデザインアートを体感できる、選りすぐりのストックホルム地下鉄アートをご紹介します。

ストックホルムの地下鉄テンスタ駅(Photo_Helga Hemschem/Foto:Hans Ekestang/Tensta/https://konst.sl.se/)

ストックホルムの地下鉄の乗車風景(Photo_Simon Paulin/imagebank.sweden.se)

地下鉄アートが生まれるまでの長い歴史

今でこそ、公共の場にアートを置くという伝統があるのですが、その起源は、1937年のスウェーデン国会で「国の新しい建物建設の際には予算の2%を芸術に使用するように」という決定が下されたことに遡ります。ストックホルムの地下鉄は、第二次世界大戦のさなか1491年に建設が計画され、1950年に最初の地下鉄路線が開通しましたが、そこにはまだ地下鉄アートを見かけることはありませんでした。当時の法律を受けて、ストックホルムのローカル鉄道を管轄する役所も、新しい駅の建設や改築の際には、その予算の最高2%までを芸術に使用するとしました。しかし政治家はあまり公共の場のアートに関心がなかったため、芸術家たちが主導し、政治家と議論と対話を続け、1956年に念願のストックホルム地下鉄中央駅と旧市街駅のアートのコンテスト開催へと漕ぎつけたのです。こうした歴史の中で、鉄道会社がただ単に芸術作品を買い上げて駅に展示するというのではなく、芸術家たちと協力しながら、その時代の社会を反映する環境問題や女性の権利などのメッセージを込め、地下鉄の駅という公共の場にアートを用いるという現在のスタイルが確立しました。60年ほどに渡る長い歳月をかけて発展してきた地下鉄アートには、その時代を映す芸術のスタイルが駅やラインごとにあり、その陰には民主主義を基盤とした理念があり、スウェーデンが持つ「機能性を追求した日常に溶け込むデザイン」の真髄を感じることができます。

ストックホルムの地下鉄ガムラスタン駅(Photo_Goran Dahl/Foto:Hans Ekestang/Gamla stan/https://konst.sl.se/)

ストックホルム地下鉄建設の様子(Photo_Simon Paulin/imagebank.sweden.se)

地下鉄アートの始まり、ストックホルム中央駅

ストックホルムの公共交通機関は、地下鉄、郊外電車、バス、トラム(路面電車)などの全ての公共交通を担っており、地下鉄アートの始まりは、1957年にオープンした現在のストックホルム中央駅に連接する地下鉄の中央駅になります。スウェーデン語で地下鉄は「Tunnelbanan(トゥンネルバーナ)」といい、その頭文字をとり、地下鉄の中央駅は「T-Centralen(テー・セントラーレン)」と呼ばれています。「赤、青、緑」の3ラインの駅がそれぞれあるのですが、その中でも見逃せないのが、1975年の地下鉄中央駅のオープンと共にできた青ラインの駅です。地下を掘った際の洞窟の壁をそのまま残し、利用者がストレスの多い日常から少しでも解放されるようにと、落ち着く青と白色でまとめられたホームは、自然の雰囲気を残し、白にはスウェーデンの雪の美しさを連想させます。壁の絵には駅建設に関わった多くの労働者が描かれています。エスカレーターがゆっくりとホームに向かうと、徐々に目に入ってくる床のモザイクから、壁、天井へと広がっていく地下鉄アートには、目の感覚を奪い、心に安らぎを与える美しさがあります。

ストックホルム中央駅から地下鉄中央駅に向かうホームのアート(Photo_Perter Svedberg/Foto:Hans Ekestang/Stockholm City/https://konst.sl.se/)

落ち着く青と白色でまとめられたストックホルム中央駅の青ライン地下鉄中央駅(Photo_Per Olof Ultvedt/Foto:Hans Ekestang/T-Centralen/https://konst.sl.se/)

バスルームの駅?! 最も古い地下鉄緑ライン

最も古い地下鉄のラインで1950年代に作られた駅が多い緑ラインは、地下鉄といっても地上にある駅も多く、ストックホルムの中心部にある駅のみが地下にあります。地下にある駅も、他のラインと比べると地上に近い位置にあり、四角のタイルで壁が覆われているのが特徴的で、その様子はバスルームを連想させることから「バスルームの駅」と呼ばれています。典型的な1950年の地下鉄アートを見ることができるのが、ヒュートーリエット(Hötorget)駅、ロードマンスガータン(Rådmansgatan)駅、セント・エリクスプラーン(S:t Eriksplan)駅などです。

毎年ノーベル賞の授賞式が行われるコンサートホールと屋外マーケットのあるヒュートーリエット駅は、典型的な「バスルームの駅」で初期のデザインが見たい人には必見の駅です。ホームには、1952年のオリジナルの水色のタイルが広がり、1998年に改装された際に天井に張り巡らされた約100のライトによって、様々な光の反射を映し出しています。ロードマンスガータン(Rådmansgatan)駅は、スウェーデンの有名な作家であるアウグスト・ストリングバリ(August Strindberg)がテーマとなっており、駅の近くにはストリングバリの博物館もあります。トーリドスプラーン(Thorildsplan)駅には、日本人にもなじみのあるレトロなテレビやゲームのキャラクターが、タイルを使って描かれています。

典型的な「バスルームの駅」地下鉄緑ラインヒュートーリエット駅(Photo_Gun Gordillo/Foto:Hans Ekestang/Hotorget/https://konst.sl.se/)

日本でもなじみのあるキャラクターが見られる地下鉄緑ライントーリドスプラーン駅(Photo_Lars Arrhenius/Foto:Hans Ekestang/Thorildsplan/https://konst.sl.se/)

部屋の中の部屋をイメージした、地下鉄赤ライン

赤ラインの駅は1960年代に建設されたものが多く、地下にある駅がほとんどです。建設技術の進歩に伴い、1950年代の「バスルーム」のタイルから、地球色に近いセラミック素材へと移り替わり、多くの駅が「部屋の中の部屋」をイメージしてデザインされました。典型的な1960年代の地下鉄アートが見られる駅は、エステマルムストリエ(Östermalmstorg)駅、マリアトリエット(Mariatorget)駅、ホンスツール(Hornstull)駅などです。

ストックホルムの地下鉄アートの中で、最も有名なものの一つといっても過言でないのが、エステマルムストリエ(Östermalmstorg)駅にあるシリ・ダーケーツ(Siri Derkerts)の壁画です。平和と環境、女性の権利獲得の戦いをテーマとし、さらに音楽とダンス、自画像や家族などを盛り込み、作者の人生の喜びをも描いた作品となっています。赤ラインには、ストックホルム大学に直結する駅である、ユニバーシテート(Universitet)駅と王立工科大学のあるテクニスカ・ホーグスクーラン(Teknikska högskolan)駅があり、それぞれ科学と研究、学問が描かれていて、こちらも見ごたえがあります。

ストックホルムの地下鉄アートの中で、最も有名と言われる地下鉄赤ラインエステマルムストリエ駅(Photo_Siri Derkert/Foto:Hans Ekestang/Ostermalmstorg/https://konst.sl.se/)

地下鉄赤ラインテクニスカ・ホーグスクーラン駅(Photo_Lennart Mork/Foto:Hans Ekestang/Tekniska hogskolan/https://konst.sl.se/)

洞窟の駅、地下鉄青ライン

3つの路線の中で最も新しいのが1970年代に開通した青ラインです。ユニークで独創的なアートの駅が多くあり、ストックホルムの地下鉄アートを見るならこのラインと言われている路線です。駅を建設する際に地下を掘ってできた洞窟をそのまま生かすことを思いつき、打ち砕いた壁をコンクリートで補強したことで洞窟のような雰囲気となったため、「洞窟の駅」と呼ばれています。芸術家たちは、最初から建設に関わり、様々な提案を重ね、駅全体を一つのアート作品に仕上げることに成功しました。これらの洞窟の駅が見られるのが、ロードヒューセット(Rådhuset)駅、クングストレードゴーデン(Kungsträdgården)駅、ソルナセントルム(Solna centrum)駅、テンスタ(Tensta)駅などです。

クングストレードゴーデン(Kungsträdgården)駅は、日本から送られた桜の木が毎年美しい花を咲かせてくれる王様の公園のそばにある駅です。地上の公園をイメージしながら作られた地下の駅には、時を超え、昔の銅像や絵画などを組み合わせた独特の世界が駅全体に広がっており、ストックホルム王宮の遺跡の残りも観ることができます。ソルナセントルム(Solna centrum)駅は、1970年代の時代の変化をテーマにした駅として有名で、環境破壊や過疎化などの社会問題を、壁全面に塗られた真っ赤な色と森をイメージした緑で表現しており、一見の価値がある地下鉄アートです。

地上の公園をイメージした地下鉄青ラインクングストレードゴーデン駅(Photo_Ulrik Samuelson/Foto:Hans Ekestang/Kungstradgarden/https://konst.sl.se/)

社会問題を赤、森を緑でイメージした地下鉄青ラインソルナセントルム駅(Photo_Anders Aberg Karl-Olov Bjork/Foto:Hans Ekestang/Solna Centrum/https://konst.sl.se/)

常に発展を遂げる地下鉄アート

1990年代に入ると新しい駅が建設されるようになり、光や音を利用したデザインなど、新しい形の地下鉄アートが生まれました。公共の場である駅という空間に、芸術の創造性と多様性を取り入れ、他の駅と似たような印象にならないように、常に進化と発展を遂げているのが地下鉄アートの醍醐味でもあります。バーガモッセン(Bagarmossen)駅では、トンネルのような洞窟の印象をそのまま生かし、全体に228個の照明付きガラスパネルを配置した色と光のアートが楽しめます。地下鉄の中央駅と隣接しているストックホルム中央駅はリニューアル工事され、郊外電車の駅名が2017年に「Stockholm City(ストックホルムシティ)」となり、駅も様変わりをしました。この新駅にも新しいアートが多く取り入れられています。

2000年代に入ると、オーデンプラーン(Odenplan)駅など複数の駅で期間展示も取り入れられるようになりました。改築や改装が行われる際にも、このアートへの情熱は衰えることなく、今では地下鉄のみならず、郊外電車やバスターミナルなどでもアートは当たり前のものとなりつつあります。2013年には、ストックホルムの地下鉄拡張工事が決定し、2030年までに更に10駅の開通を目指して工事が進んでいます。ストックホルムの地下鉄アートは、今後も更なる発展を続け、駅の機能性を高めるとともに、日常に溶け込む斬新なデザインアート生み出し、人々を楽しませ続けてくれることでしょう。

1990年代の新しい駅バーガモッセン駅(Photo_Gert Marcus/Foto:Hans Ekestang/Bagarmossen/https://konst.sl.se/)

ストックホルム中央駅の新駅、ストックホルムシティ駅(Photo_Mikael Pauli/Foto:Hans Ekestang/Stockholm City/https://konst.sl.se/)

【おすすめ記事】スウェーデンの夏至祭、ミッドサマー。夏の到来を祝う伝統的なお祭りをご紹介 はこちら
【おすすめ記事】スウェーデンのコーヒー文化、フィーカを体験!美味しいお菓子とに楽しい時間を生活の一部に はこちら

Text:サリネン れい子

SHARE ON SOCIAL MEDIA

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

SCANIA JAPANの最新情報をお届けします。

NEW

駅が美術館?!スウェーデン・ストックホルムの地下鉄アートとは

「世界で一番長いアートギャラリー」という異名をもつスウェーデンのストックホルムの地下鉄は、110キロメートルに渡って配置された約100の駅に、1950年代からの現代までの約150名の芸術家による、絵画、モザイク、彫刻、レリーフなど、様々な芸術作品が展示されています。今回は、そんなスウェーデンならではの機能性とデザインアートを体感できる地下鉄アートをご紹介します。

Culture

スカニアが誇る「モジュラーシステム」VOL.2 〜モジュラーシステム発展の歴史を辿る〜

モジュラーシステムという言葉をご存知でしょうか。互換性が高い少数の部品を組み合わせることで、様々な製品バリエーションを展開する考え方です。この概念を世界で最初に実現し、リードしてきたのが『SCANIA(スカニア)』です。そこで、今回はモジュラーシステムに関して、2回に分けてご紹介します。第2回では、その歴史を辿ります。

Scania’s History

スカニアが誇る「モジュラーシステム」VOL.1 〜少ないピースの組み合わせで無限のバリエーション〜

モジュラーシステムという言葉をご存知でしょうか。互換性が高い少数の部品を組み合わせることで、様々な製品バリエーションを展開する考え方です。この概念を世界で最初に実現し、リードしてきたのが『SCANIA(スカニア)』です。そこで、今回はモジュラーシステムに関して、2回に分けてご紹介します。第1回は、モジュラーシステムとは何か?をお送りします。

Scania’s History

スカニア製二階建てバスが運ぶ、貸切観光バスの新しい価値 〜有限会社オートウィル様〜

2016年以降続々と増えている、スカニア製二階建てバス。千葉県茂原市の有限会社オートウィルでも、貸切観光バスサービス事業で新たにスカニアを採用しました。そこで今回は、2月に開催されたお披露目会の模様も併せて、同社のスカニア製二階建てバスの詳細をレポートします。

CUSTOMER

スウェーデンの復活祭、イースター。春の訪れを告げる一大行事をご紹介

長く厳しい冬が終わりを迎え、春の訪れを告げるかのようにやってくるのが、イースター(復活祭)です。スウェーデンでは、夏至祭(ミッドサマー )、クリスマスと並ぶ最も重要な年中行事の一つで、イースターが近づいてくると、待ちに待った春の兆しに、人々の心が華やぎます。今回は、あまり知られていないスウェーデンのイースターについてご紹介します。

Culture

スカニアだからこそ実現できた、効率的な空港間輸送 〜株式会社平野ロジスティクス様〜

兵庫県神戸市西区に本社を置き、全国に4支店・5営業所を構える株式会社平野ロジスティクスは、スカニアトラクターを納車待ちも含めると13台保有しています。主としている航空貨物輸送におけるスカニアの強みなどのお話を、ドライバーインタビューも併せてお届けします。

CUSTOMER